小説

スポンサーリンク
小説

第六十二話「ハトのハーモニーと胸のざわつき」

気がつくと、俺はあの場所がある街に立っていた。 時計を見る。完全に遅刻だ。もう言い訳のしようもない。 どうしたものか……足が重い。あの場所に向かうのが、正直、辛い。 理由を考えるまでもない。ただ辛い。ただ、行きたくない。...
小説

第六十一話「資本主義の夢が醒める場所」

目が覚めると、まだ外は真っ暗だった。 時計は午前二時を指している。エアコンを止めて窓を開けると、冷たい風が部屋の中にそっと入り込んできた。ああ、この感じ、好きだなと思う。涼しさが身体をやさしく撫でていく。心地よくて、俺はもう一度、静...
小説

第六十話「印象派よりも印象に残る昼ごはん」

気がつくと、あの場所にいた。 机の上に一通の封筒が置かれている。 恐る恐る開けてみると、どうやら健康診断の結果らしい。 ——そうか、先週の金曜、有給休暇を取ったときに配られたのか。 結果を見ようとしたその瞬間、元の...
小説

第五十九話「旅は風まかせ、夢は夏まかせ」

目が覚めたのは、いつもよりだいぶ遅い時間だった。 昨夜の夜市での疲れが、まだ体に残っているのかもしれない。 深く眠っていた感覚がある。夢の内容は思い出せないが、向こうの世界の記憶が、かすかに胸の奥に残っている気がした。 ...
小説

第五十八話「五重塔の下で交わす声」

小鳥とセミが、早朝から合唱をはじめていた。 まるで夏のコンクールに向けた最後の追い込みみたいだ。 俺は古い木造校舎の中にいた。夏休み中の学校には、生徒の姿はなく、静けさが支配している。 まるで、生徒たちがこの世界から一時...
小説

第五十七話「静かな凪と、記憶のない航路」

どりゃぶりの雨の中、俺は知らない街を歩いていた。 向こうの方で誰かが話している。だが、雨音にすべてかき消される。言葉は粒となって、空気の中に溶けていく。 熱帯夜。久しぶりに、本格的な熱帯夜を過ごしている気がする。 今日は...
小説

第五十六話「年休カードと鉄の誓い」

とても眠たい。 どうやら朝が来たようだ。 起きたくない。起きれない。 しっかり眠ったはずなのに、まだ眠たい。 歯を磨いて、顔を洗う。 水筒に珈琲を淹れて行こう。あの場所へ。 塩おむすびをひとつ食べて、車...
小説

第五十五話「誰もが騎士で、誰もが疲れてる」

最近、向こうの世界に行くことが少なくなった。 いや、行ってはいるのだろう。けれど気づかないまま、気づけないまま、目が覚めてしまう。 気づけば朝。 そして、いつもの時間が来る。 あの場所へ向かう時間。 あの、海...
小説

第五十四話「未来を見にきた若者と、今日をこなす俺たち」

ここはどこ?わたしはだれ? ぼんやりとした意識のまま、天井を見上げる。 昨夜はエアコンをつけなくても寝られた。ほんの少し涼しかった気がする。 朝の空気に夏の終わりの予感を感じながら、俺は身を起こした。 外に出ると、...
小説

第五十三話「玉子焼きを求めて青空に橋がかかるあの街へ」

深夜、暑さで目が覚めた。 額にじっとりと汗がにじんでいる。 昨日の夜市の賑わいと、気になる選挙結果が頭をよぎる。 三連休の最終日。今日は隣の県へ足を伸ばす予定だった。 もう少しだけ、まどろみに身を預けよう。 ...
スポンサーリンク
タイトルとURLをコピーしました