小説第六十二話「ハトのハーモニーと胸のざわつき」 気がつくと、俺はあの場所がある街に立っていた。 時計を見る。完全に遅刻だ。もう言い訳のしようもない。 どうしたものか……足が重い。あの場所に向かうのが、正直、辛い。 理由を考えるまでもない。ただ辛い。ただ、行きたくない。... 2025.07.30小説
小説第六十一話「資本主義の夢が醒める場所」 目が覚めると、まだ外は真っ暗だった。 時計は午前二時を指している。エアコンを止めて窓を開けると、冷たい風が部屋の中にそっと入り込んできた。ああ、この感じ、好きだなと思う。涼しさが身体をやさしく撫でていく。心地よくて、俺はもう一度、静... 2025.07.29小説
小説第六十話「印象派よりも印象に残る昼ごはん」 気がつくと、あの場所にいた。 机の上に一通の封筒が置かれている。 恐る恐る開けてみると、どうやら健康診断の結果らしい。 ——そうか、先週の金曜、有給休暇を取ったときに配られたのか。 結果を見ようとしたその瞬間、元の... 2025.07.28小説
小説第五十九話「旅は風まかせ、夢は夏まかせ」 目が覚めたのは、いつもよりだいぶ遅い時間だった。 昨夜の夜市での疲れが、まだ体に残っているのかもしれない。 深く眠っていた感覚がある。夢の内容は思い出せないが、向こうの世界の記憶が、かすかに胸の奥に残っている気がした。 ... 2025.07.27小説
小説第五十八話「五重塔の下で交わす声」 小鳥とセミが、早朝から合唱をはじめていた。 まるで夏のコンクールに向けた最後の追い込みみたいだ。 俺は古い木造校舎の中にいた。夏休み中の学校には、生徒の姿はなく、静けさが支配している。 まるで、生徒たちがこの世界から一時... 2025.07.26小説
小説第五十七話「静かな凪と、記憶のない航路」 どりゃぶりの雨の中、俺は知らない街を歩いていた。 向こうの方で誰かが話している。だが、雨音にすべてかき消される。言葉は粒となって、空気の中に溶けていく。 熱帯夜。久しぶりに、本格的な熱帯夜を過ごしている気がする。 今日は... 2025.07.25小説
小説第五十六話「年休カードと鉄の誓い」 とても眠たい。 どうやら朝が来たようだ。 起きたくない。起きれない。 しっかり眠ったはずなのに、まだ眠たい。 歯を磨いて、顔を洗う。 水筒に珈琲を淹れて行こう。あの場所へ。 塩おむすびをひとつ食べて、車... 2025.07.24小説
小説第五十五話「誰もが騎士で、誰もが疲れてる」 最近、向こうの世界に行くことが少なくなった。 いや、行ってはいるのだろう。けれど気づかないまま、気づけないまま、目が覚めてしまう。 気づけば朝。 そして、いつもの時間が来る。 あの場所へ向かう時間。 あの、海... 2025.07.23小説
小説第五十四話「未来を見にきた若者と、今日をこなす俺たち」 ここはどこ?わたしはだれ? ぼんやりとした意識のまま、天井を見上げる。 昨夜はエアコンをつけなくても寝られた。ほんの少し涼しかった気がする。 朝の空気に夏の終わりの予感を感じながら、俺は身を起こした。 外に出ると、... 2025.07.22小説
小説第五十三話「玉子焼きを求めて青空に橋がかかるあの街へ」 深夜、暑さで目が覚めた。 額にじっとりと汗がにじんでいる。 昨日の夜市の賑わいと、気になる選挙結果が頭をよぎる。 三連休の最終日。今日は隣の県へ足を伸ばす予定だった。 もう少しだけ、まどろみに身を預けよう。 ... 2025.07.21小説