第四十八話「あの日、オールスターの風に吹かれて」 

小説
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長い長い物語を、俺は読んでいた。

それはとても不思議な物語で、あっちの世界に行ったかと思えば、すぐこっちの現実世界に戻ってきたりする。

まるで呼吸をするみたいに、自然に行ったり来たりできるその世界は、複雑で、面白くて、そしてちょっとだけ優しかった。

朝、目が覚めた瞬間、俺の身体は重力に押しつぶされていた。まったく、寝返りをうつことすら困難だ。

完全にピンチである。

俺は“起きる”という小さな闘いに、全力で挑んだ。結果、なんとか勝利。疲労感だけが残る。

「なぜここまでして俺はあの場所を目指すのか?」

自問しながら、重い身体を車に押し込めた。

運転中は不思議と集中できるから不思議だ。意識はスーッと整っていく。

現地に着いた頃には、再び身体の重さが襲ってきた。まるで“あの場所”の重力が、通常の1.5倍に設定されているような気さえする。

門をくぐると、俺は静かにつぶやいた。

「これは……いい修行になりそうだ」

意識を整えて、パソコンの電源を入れる。

メールの受信ボタンを押すと、案の定、雪崩のような受信通知。

「午前中の仕事はこれで決まりだな」

軽く絶望しながら、俺は意識を“向こうの世界”へと切り替えた。

目を閉じると、冷たい空気の流れる洞窟にいた。

脳裏には“不安”という文字が、ふわっと浮かんで、そして消える。

遠くで鐘の音が鳴った。これは、はじまりの合図だ。

「とりあえず体操からだな」

考えるのは、それからでいい。

メールを片っ端から既読にする。ほとんどが連絡事項。

「グラウンドが駐車場になります、ご了承を」

「了解です」

心の中でそうつぶやく。

中には重要なメールもたぶんある。でも今日はもう、うどんのことしか考えられない。

「そうだ、今日はきつねうどんにしよう」

ふと、うどん小屋のおばちゃんのことを思い出した。

姿を見なくなって、もうずいぶん経つ。

彼女はいまや、伝説の人物だ。

そろそろラジオ番組で特集が組まれてもおかしくない。

「“幻のきつね”~消えたうどん小屋のおばちゃんの謎~」とかなんとか。

そして今日。

そう、今日はメジャーリーグのオールスター。

日本人選手も何人か出ているらしい。気になって動画を開こうとしたが、繋がらない。

きっとみんな観ているんだろう。

「オールスターが来ると、今年も半分終わったな」

季節のスピードについていけず、少し目が回る。

やっと動画が繋がった。

ニュースではメジャーリーグのオールスターの話題でもちきり。

ケータリングの料理も映されていたが、俺の目はある一点に釘付けになった。

そこに、見覚えのあるうつわがあったのだ。

あつあつの、きつねうどん。まさか……

そのとき、場内アナウンスが鳴り響いた。

「始球式を務めるのは、日本で一番有名なうどん小屋のおばちゃんです!」

観客がどよめく。

まさかの、あのスーパースターと並んで、おばちゃんが立っている。

エプロン姿のまま、やけに堂々としていた。

打席には、世界が注目するスラッガー。

その隣で、うどんをかき混ぜるおばちゃん。

始球式というより、何か別の儀式のようだった。

だが、奇妙なその光景には、なぜだか胸が温まった。

思えば、どんな華やかな舞台にも、どこかに“日常”の香りがある。

派手なユニフォームの向こうに、あの日の湯気が見えることもある。

「オールスターだなあ」

画面越しに俺はつぶやいた。

こうして今年のオールスターは、うどんとスーパースターの香りをまとって、静かに、そして愉快に幕を開けた。

おでの名前はタケルやで!

ちっこいのは最近、正社員になったダイチや。
旅好きなおでは後輩のダイチと
素敵な場所を
探して日々旅をしとるんやで。
ダイチと旅で見つけた
素敵な場所を
『タケルが行く』で紹介していくのでよろしくや!

ータケルの選手名鑑ー
選手名 タケル
ポジション 投手
背番号 16
利き手 右投げ左打ち
出身地 アルゼンチン
好きな食べ物 リンゴ

ーダイチの選手名鑑ー
選手名 ダイチ
ポジション 投手
背番号 14
利き手 右投げ右打ち
出身地 長崎
好きな食べ物 きびだんご

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