第三十四話「ルールなき世界で一列に並ぶ理由」

小説
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俺は真っ赤なポルシェで峠を攻めていた。

圧倒的な加速、どんなコーナーも思いのままの旋回性能。そして、唯一無二のデザイン。

まさにドイツが生んだ最高傑作。イタリアの跳ね馬もいいけど、俺は断然、ドイツの跳ね馬派だ。

そんなとき、目の前で突然、事故が起きた。

慌てて車を降り、救助に駆けつける。周囲の人たちも同じように手を貸す中、事故当事者のオヤジが車から降りてきた。

事故のショックで混乱してるんだろう――最初はそう思ってた。

ところが、そのオヤジ、突然救助を手伝ってる人に怒鳴り始めた。

無理やり引っ張ってどこかに連れて行くかと思えば、戻ってきてはまた別の人に怒鳴る。怒りのスタンプラリーでもしてるのかと思った。

さすがに見かねて、俺は聞いた。

「救助手伝ってるのに、その態度は何だよ?」

オヤジは言った。

「若いやつらの動きがトロくてイラつくんだよ!」

……なるほど、理不尽ってのはこういう場面を言うんだな。

これは、あっちの世界で俺が何度も見てきたやつだ。

この世には、いろんな奴がいる。理屈じゃ通じない世界もある。

ふと我に返ると、俺はこっちの世界に戻っていた。

あんなオヤジ、もう二度と遭遇したくない。

そういや昔、本で読んだことがある。

「どんな行動にも何かしらの理由がある」って。

でも誰かが言ってたな、「この世は理不尽でできている」って。

時計を見ると、まだ深夜0時過ぎだった。

とんでもない場面に遭遇したもんだ。

俺は目を閉じ、再びあっちの世界へ。

気がつくと、田舎のばぁちゃんの家にいた。

田んぼに水が張られ、草木は生い茂り、風が気持ちいい。

これぞ日本の原風景。

俺はその中を、子どものように走り回って遊ぶ。

親戚も集まってきてる。法事かな、たぶん。

思いきり遊び疲れて、畳の上でそのまま眠ってしまった。

そして、目を覚ますと、現実世界の朝。

「あぁ、戻ってきたな」と思うと、なんだかすごく息苦しい。

でも行かなくちゃいけない。あの場所へ。

めちゃくちゃ眠たいけど、俺は車に乗り込んだ。

外に出ると、今日はやけに曇ってる。

梅雨に逆戻りしたみたいな空。でも気温はすでに夏だ。

車のラジオからは、ペリーの話が流れてる。

そう、日本に黒船でやってきたあのペリー。

なぜ彼は鎖国を迫ったのか?

そのときアメリカでは何が? 世界では何が起きてた?

オープニングだけでワクワクするけど、続きは聴けなかった。

あの場所に着いたからだ。

今日の気分はどんよりしている。

空のせいか、それとも昨夜のせいか。

はじまりの鐘が鳴る前、少しだけ眠ることができた。

思った以上に深く眠っていたみたいで、夢の世界には行けなかった。

そして、鐘の音で目を覚ます。

ざわめく、あの場所。

今日もスタートは朝の体操から。

誰もやらないのに、スピーカーから流れる体操の音楽。

上がやらないなら、下もやらない。

組織ってそういうもんだ。

そのあとは、安全放送。

どこかのおじさんが棒読みで読む、安全へのお知らせ。

小さな声でツッコんだ。「もうちょっと練習したほうがいいんじゃない?」

これじゃ災害も避けられないよな。

あの場所は、まさに治外法権。

みんな、自分ルールを持ってる。

唯一、共通しているのは「覇気がない」ってことだ。

昼が来てうどんの時間を告げる鐘が鳴る。

外に出ると、空はまだ曇ってるけど、湿度はうなぎ上り。

うどん小屋に着くと、すでに行列ができていた。

この場所で唯一、ちゃんとルールが守られているのが、このうどん小屋だ。

国籍も年齢も関係なく、みんな笑顔だ。

きっと、あっちの世界の甲板のラーメン屋も、今ごろ笑顔にあふれてるんだろうな。

あの船の上でも、きっと誰かがラーメンをすする音がしてる。

湯気の向こうで、誰かの一日が始まってる。

俺は、裏メニューの「牛しぐれ煮うどん」を注文した。

こう暑いと、しっかりエネルギーになるものを食べないと。

うつわから立ちのぼる湯気が、どこか懐かしい匂いを連れてくる。

田んぼで駆けまわったあの夏の記憶も、事故の夜に見たあの理不尽も、

全部この一杯の中に溶けていくような気がした。

並んで、待って、食べる。

ただそれだけのことが、今日は少しだけ尊く感じた。

うどん小屋の列は、今日も静かに伸びている。

タケルもダイチも、ちゃんと並んでいる。

その背中が、なんだか頼もしく見えた。

タケルとダイチ

おでの名前はタケルやで!

ちっこいのは最近、正社員になったダイチや。
旅好きなおでは後輩のダイチと
素敵な場所を
探して日々旅をしとるんやで。
ダイチと旅で見つけた
素敵な場所を
『タケルが行く』で紹介していくのでよろしくや!

ータケルの選手名鑑ー
選手名 タケル
ポジション 投手
背番号 16
利き手 右投げ左打ち
出身地 アルゼンチン
好きな食べ物 リンゴ

ーダイチの選手名鑑ー
選手名 ダイチ
ポジション 投手
背番号 14
利き手 右投げ右打ち
出身地 長崎
好きな食べ物 きびだんご

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