第三十三話「止まる世界、走るカローラ、そして俺は甲板で」

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小鳥の囀りで目を覚ます。

「小鳥さん、もうちょっと寝てもいいですか?」

そんな問いかけに、小鳥はもちろん答えない。だけど、俺の心に何かがざわつく。

時計は確実に、あの場所へと向かう時間を刻んでいる。

今日から7月。

異例の梅雨の短さだった6月が終わり、空気が少し変わった気がする。

地球も、そして俺自身も、何かが変わろうとしている。たぶん、ね。

ふと頭の中に、どこかで聞いた声が響いた。

「ここにいる。わたしは年をとっているから、ここでいい。みんなは中に入れ」

――激戦の海で、戦艦の甲板に立ち尽くす司令官の言葉だった。

上司が背中で語る姿。

あの場所にはない風景。

あの場所に向かう途中で、いつもすれ違う奴がいる。

両耳にイヤホン、スマホを横にして腕をめいっぱい伸ばして動画を見ながら歩いてくる。

そのバッグにはなぜか神社のお守りがぶら下がっている。

歩きスマホの進化形、いや、最終形態かもしれない。

あの〜、腕、疲れませんか?と一度聞いてみたい。

すれ違う車も相変わらずだ。

朝から猛スピード。

いや、ここサーキットじゃないんですよ。

もしかして、ハチロクに憧れる元走り屋?

いやいや、車種はカローラだし。

「カローラIIに乗って〜♪」

懐かしいCMのフレーズが浮かぶ。

買い物に出かけたはずが、財布を忘れてそのままドライブ。

そんな自由な7月のはじまり。

今月は、人生論について考えてみよう。

人はなぜ生まれ、生きるのか。

答えなんて出ないけど、考えることには意味がある。たぶん。

あの場所に着く。

今日はやけににぎやかだ。

7月になったから?

笑い袋おじさんも絶好調。けたけた笑いながら、何も変わらぬ日常を演じている。

でも、ふと気づく。

――今年、セミの声を聞いていない。

あの耳をつんざく合唱が、どこにもいない。

梅雨が短すぎたせいで、虫たちもスケジュールを狂わされたのか。

天気予報には、雨マークはなし。

代わりにスマホには地震速報。

え、1分おきに揺れてるって、何事?

しかも、あの場所の南の方だ。

おいおい、冗談でしょ。

雨もなく、地震が続き、セミは鳴かず、海には大量のクラゲ。

まるで映画の序章みたいな空気。

変わらないのは、あの場所の人たちだけ。

変わらなさすぎて、ちょっと心配になる。

――停滞は衰退の始まり。

あの場所の衰退は、もしかしたらもう始まってるのかもしれない。

世界は変わり続けている。

資本主義は、成長が前提のゲーム。

立ち止まることは、後退を意味する。

なのに、俺たちは……。

昼の鐘が鳴る。

次の瞬間、俺は意識を失った。

気がつくと、大海原の戦艦の甲板に立っていた。

潮風とともに、漂うのは――ラーメンの香り。

振り返ると、そこには「本格ラーメンはじめました」の旗。

なんと、いつものうどん小屋のおばちゃんが、甲板でラーメンを始めていたのだ。

しかも、あのうどん用の器に、しっかりチャーシューとメンマ、そしてネギまで乗ってる。

これはもう、立派なラーメン。うどんの殻を破った進化の味だ。

一口すする。

――うまい。

まるで屋台で食べる、あの懐かしい味が口に広がった。

おばちゃんは、いつもの笑顔でこう言った。

「エアコン効いた船内で食べな」

でも俺は、甲板に吹く風の中で、静かに答えた。

「俺はここでいい」

そのおばちゃんのエプロンには、こう書かれていた。

「停滞は衰退の始まり」

そして俺は、もう一口、ラーメンをすする。

世界が変わっていく音を、背中で聞きながら。

タケルとダイチ

おでの名前はタケルやで!

ちっこいのは最近、正社員になったダイチや。
旅好きなおでは後輩のダイチと
素敵な場所を
探して日々旅をしとるんやで。
ダイチと旅で見つけた
素敵な場所を
『タケルが行く』で紹介していくのでよろしくや!

ータケルの選手名鑑ー
選手名 タケル
ポジション 投手
背番号 16
利き手 右投げ左打ち
出身地 アルゼンチン
好きな食べ物 リンゴ

ーダイチの選手名鑑ー
選手名 ダイチ
ポジション 投手
背番号 14
利き手 右投げ右打ち
出身地 長崎
好きな食べ物 きびだんご

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