第六十四話「聴くこと、それが僕の正義だった」

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戦いは、あの世界でも、この世界でも起こりうる。

そしてそこに生まれる「正義」は、時に人を突き動かし、時に心を壊す。

今日から八月。金曜日の朝。

目覚めは悪く、夢の続きを引きずるような重たい気分だった。

とにかく顔を洗って、シャツに袖を通し、玄関のドアを開ける。

車のエンジンが妙に唸っていたのは、俺の気持ちを代弁していたのかもしれない。

ラジオからは、戦時下の官僚についての特集が流れていた。

内容は重く、しかしどこか淡々としていた。

「法に則って、それをやる。与えられた任務を、誇りを持って遂行する」

そう語る官僚の音声が流れる。

彼は、自分なりの正義感に従って職務を果たしていたという。

民主的に選ばれたトップが定めた法律。それに従うことこそが市民の義務であり、道徳であると信じていた。

けれどその「正義」が、誰かの命や心を壊していたとしても、それは職務の中に溶けていく。

「良心を克服してでも、秩序を守らねばならない」

そう語る声に、俺は耳を澄ませていた。

本当にそれが正義だったのか?

自分では決められない。

社会が決めた「正解」に、人はいつしか慣れていく。

それを洗い流すのは、容易なことじゃない。

深く、静かに、そんなことを考えながら、俺はあの場所の街へ着いた。

門をくぐると、マイクを手にしたシンガーソングライターが朝の空に向かって歌を歌っていた。

セミの合唱と、ハトの羽ばたきが即席のオーケストラになっていた。

けれど誰も足を止めなかった。

朝にしては暑すぎたのかもしれない。

俺も、何も言わずにその前を通り過ぎ、いつものあの場所に入った。

始まりの鐘が鳴る。

軽く体操を済ませると、スピーカーから放送が流れてきた。

その中から、さっきのシンガーソングライターの歌声が再び聴こえてきた。

魂のこもった歌声だったが、誰も耳を傾けようとはしなかった。

せめて俺だけでも、聴いていようと思った。

歌が終わると、あの場所の一日が本格的に始まった。

今日は月初。

一ヶ月の仕事を見渡して、納期を調整し、割り振りを考える。

お盆も控えている八月は、ペース配分が鍵になる。

そんなこんなで、朝の時間はすぐに過ぎていった。

昼の鐘が鳴る。

国営放送が始まり、心地よいメロディーが流れてきた。

その音に重なるように、聞き覚えのある歌声がスピーカーから響いた。

——あの、うどん小屋のおばちゃんの声だった。

向こうの世界にいるはずの彼女が、なぜかこっちの世界に来て歌っている。

もちろん、彼女がここにいるわけじゃない。

それでも、声だけは確かに届いていた。

その事実だけで、俺は胸がいっぱいになった。

俺は、あのやさしい歌を聴きながら、きつねうどんをすする。

出汁の香りが、妙にあたたかい。

完食と同時に、放送も終わった。

いつもの午後を告げるメロディーが流れる。

その音は、なぜか毎回胸を締めつける。

逃げ出したくなる。涙が出そうになる。

理由はわからない。けれど、確かに心に重たく残る音だった。

ふと、風が吹いた。

その風に乗って、もう一度あの歌声が聴こえた気がした。

きっと、どこかで——この世界のどこかで、

うどん小屋のおばちゃんは、

今日も誰かのために歌っているんだろう。

俺はそう信じて、午後の仕事へと向かった。

あと半日。

風と共に流れるその歌を、背中で聴きながら。

おでの名前はタケルやで!

ちっこいのは最近、正社員になったダイチや。
旅好きなおでは後輩のダイチと
素敵な場所を
探して日々旅をしとるんやで。
ダイチと旅で見つけた
素敵な場所を
『タケルが行く』で紹介していくのでよろしくや!

ータケルの選手名鑑ー
選手名 タケル
ポジション 投手
背番号 16
利き手 右投げ左打ち
出身地 アルゼンチン
好きな食べ物 リンゴ

ーダイチの選手名鑑ー
選手名 ダイチ
ポジション 投手
背番号 14
利き手 右投げ右打ち
出身地 長崎
好きな食べ物 きびだんご

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