第六十七話「定まる視点、揺れないシートポジション」

小説
スポンサーリンク

俺はスポーツカーに乗ろうとしていた。

シートに体を沈めてみるが、どうにも落ち着かない。

純正のままでは、どうやら俺の体型には合わないらしい。

店員が「これ、交換できますよ」と言って、手際よくシートを外し、別のシートを持ってきた。

その動きがとてもスムーズで、まるで長年連れ添った相棒と会話しているかのようだった。

新しいシートに腰を下ろすと、今度はぴたりと収まった。

なるほど、こういうのを“しっくりくる”って言うんだろう。

そのまま俺は、そのスポーツカーで旅に出た。

エンジン音と風の音だけが心を満たし、どこまでも行けそうな気がした。

アラームの音で目が覚める。

夢だった。

あっちの世界では旅に出た俺が、こっちの世界ではまた月曜日に戻ってきた。

そう、あの場所へ行く時間だ。

着替えながら考えていたのは、メディアという存在についてだった。

俺たちは情報の波に浸かりすぎていて、自分が何を見て、何を信じてるのかすらわからなくなることがある。

メディアって何だろう。

単なる情報伝達の手段か、それとももっと大きなものか。

権力が、特定の意図のために人々の認識を変えようとする装置。

そんなふうに思えてならない。

誰かに何かを伝えようとする技術、それがメディア。

そう定義するなら、最古のメディアは「文字」だった。

文字の誕生によって、概念や知識を秩序立てて保存することが可能になった。

川というインフラのまわりに人が集まって文明が生まれたように、文字という知のインフラのまわりにも人が集まり、国が生まれ、社会が形を持ちはじめた。

文字を最初に統制したのは、権力だった。

支配者は文字によって知を支配し、情報の流れをコントロールした。

書かれたことだけが「真実」になり、書かれなかったことは存在しなかったことになる。

ときには書物が焚かれ、ときには歴史が塗り替えられた。

未来に語られるはずだった物語すら、表に出てこないこともあった。

そして時代は進み、ラジオやテレビが生まれ、やがてインターネットが登場する。

マスメディアを握った者は世論を操作できるようになった。

その力は絶大だ。

でも、そのメディアを今誰が握っているのか、はっきりとはわからない。

昔は国家、今は企業か。

それとも、もっと曖昧な集合意識のようなものなのかもしれない。

そんなことを考えながら、もわっとした空気の中、俺はあの場所へと向かった。

門をくぐり、タイムカードを押す。

月曜の、いつものあの場所。

周囲を見渡せば、どの顔も疲れている。

俺も例外じゃない。

はじまりの鐘が鳴り、体操が始まる。

スピーカーからおじさんの声が流れてきたけど、いつも通り棒読みでまったく心に響かない。

あれじゃダメだなと思いながら、水滴がポタポタと通路に落ちる音に気づく。

誰かが、自分の洗ったコップをよく拭かずに持ち歩いていたらしい。

この場所には、時々常識の通じないやつがいる。

そういう細かいところに、空気の悪さが滲み出てくる。

ミーティングを終える頃、うどん小屋の鐘が鳴る。

外は相変わらず暑い。

常連たちが次々と小屋に集まってくる。

ここには、せめて少しでも常識のある空気があってほしい。

そう思っていたところに、「やれやれおじさん」が登場した。

彼は今日もやれやれと大声で連呼している。

正直、あのやれやれの中にどんな意味が詰まっているのか、俺にはわからない。

でも、あれが彼なりの「表現」なのかもしれないなと、少しだけ思った。

俺はきつねうどんをすすりながら、彼のやれやれをBGMに耳にした。

午後、俺は次のイベントのことを考える。

どんな屋台を出すか。

どうすれば価値を感じてもらえるか。

考えるのは楽しいし、そこにはちゃんと自分の意志がある。

メディアから得た誰かの意見じゃない、自分の五感で感じたことをもとにしている。

結局のところ、メディアの情報は参考程度にしかならない。

実際に足を運び、目で見て、舌で味わい、肌で感じたことが、一番信頼できる。

情報が溢れるこの時代に生きる俺たちは、何を信じて、何を捨てるのか、自分で選べる。

選択肢が多いぶん、責任もあるけど、それこそがこの時代の強さでもある。

夢の中のスポーツカーの旅は、幻想だったかもしれない。

でも、目を覚ました俺が今、現実の道をどんな車でどう走るのかは、自分で決められる。

メディアに流されるんじゃなくて、自分で舵を取る。

どこまで行けるかなんてわからないけど、アクセルを踏むのは、俺だ。

おでの名前はタケルやで!

ちっこいのは最近、正社員になったダイチや。
旅好きなおでは後輩のダイチと
素敵な場所を
探して日々旅をしとるんやで。
ダイチと旅で見つけた
素敵な場所を
『タケルが行く』で紹介していくのでよろしくや!

ータケルの選手名鑑ー
選手名 タケル
ポジション 投手
背番号 16
利き手 右投げ左打ち
出身地 アルゼンチン
好きな食べ物 リンゴ

ーダイチの選手名鑑ー
選手名 ダイチ
ポジション 投手
背番号 14
利き手 右投げ右打ち
出身地 長崎
好きな食べ物 きびだんご

タケルとダイチをフォローする
小説
スポンサーリンク
タケルとダイチをフォローする
タケルが行く

コメント

タイトルとURLをコピーしました