第六十八話「怒りを力に」

小説
スポンサーリンク

気がつくと、さっきまでいた世界の記憶が抜け落ちていた。

何をしていたのか、誰と話していたのかすら思い出せない。

ただ、気づけば朝だった。

もうすでに身体は重く、疲労がまとわりついている。

あぁ、あの場所には行きたくない。

でも、選択肢はなかった。

俺は玄関を開け、ゆっくりと車に乗り込む。

朝の通勤道路は、相変わらず車で溢れていた。

それぞれがどこかに向かっていて、でもどこにも辿り着けていないように見える。

太陽の光だけが無邪気に降り注いでいた。

車のラジオから、ある思想家の声が流れてくる。

「人はなぜ働くのか。なぜ争うのか。構造上、そうするように作られているだけだ」と。

なんだか心の奥がざらつく。

そうかもしれない。この時代、この社会は、紙一重の上に立っている。

どんな政治家よりも、どんな実業家よりも、

思想家が人間に与える影響の方が、ずっと大きい気がする。

人の気持ちをどう扱うか。

モチベーションがどれだけ人の行動を決めているか。

それに気づいている者だけが、時代の表面を滑っていけるのかもしれない。

ラジオは次に、あの独裁者の話を始めた。

画家志望だった彼が、なぜ人々を煽動し、国を動かす存在となったのか。

「自己確信力」。

自分を信じきる力。

憎しみは憎しみを生み、怒りは新たな怒りを連れてくる。

それを許したのは、時代であり、感情だった。

「続きは、また次回です」

ラジオの声が、少しだけ余韻を残してフェードアウトした。

ふと車のスピードが落ちる。

あの場所の門が見えてきた。

鉄製の無機質なゲートが、朝の光を受けて無表情に光っている。

門をくぐるとき、毎回、少しだけ呼吸が浅くなる。

どんなに気づかないふりをしても、身体は正直だ。

ここは、何かを削って入る場所だと、知っている。

そして着いた。あの場所に。

また今日も、俺はここにいる。

タイムカードを押す。

その瞬間、どこからともなく獣のような鳴き声が響いてきた。

叫び声のような、うめき声のような、何かが軋んでいるような音。

……もしかして間違って動物園に来てしまったんじゃないか。

そんな冗談が口に出せるほど、この職場には余裕がなかった。

ここでは、感情を無くすことが生きていく術だ。

怒りも、悲しみも、全部ポケットにしまいこんでおかないと、日々を越えられない。

でも、ふざけたやつらばかりだ。

本音を言えば、叫びたくなる瞬間もある。

怒りを力に。

そんな言葉が頭をよぎる。

もしかしたら、俺の髪が金色になる日もそう遠くないかもしれない。

まるであの少年漫画のように。

気づけば、うどん小屋の時間がやってきていた。

深呼吸して店に向かう。

うどんの塩分が、心をほんの少しだけ静めてくれる。

午後にはまた打ち合わせが控えていた。

生産性なんてほとんどない。

ただ誰かの顔を立てるための、空っぽの儀式みたいな会議。

だからいまは、この一杯に集中しようと思う。

国営放送のラジオでは昼のニュースが流れていた。

株価が上昇したらしい。

それを聞いて、俺の血圧も上昇する。

そして体温も上がる。

血管が何本あっても足りないような感覚。

……俺は、本当にここにいるべきなのか?

争いは、小さな火種から始まる。

それが国単位になれば戦争と呼ばれる。

人はどうして争い続けるのか。

思想の違い? 感情の暴走?

あるいは、人間はどこかで争いを求めているのかもしれない。

あの場所での生活は、まさにそういう些細な衝突の連続だった。

「何事もなく一日を終える」——それがどれほど難しいか、ここに来て痛感する。

でも、時には怒ればいい。

怒りは、人を突き動かす。

何かを変えたいという願いの、いちばん底にあるものかもしれない。

「怒れ、怒るんだ」

かつてある父親が、息子にそう言ったという話を思い出す。

その息子は、やがて金髪になった。

その先にあったものとは——

突然、あたりが暗くなった。

まるで夜が突然やってきたかのように、空気が張り詰める。

そのとき、俺の目の前に、七つのうどんのうつわが現れた。

それぞれのうつわが、淡く輝いていた。

かけうどん、天ぷらうどん、カレーうどん、月見うどん、釜玉、肉うどん——

そして最後のひとつは、金色の出汁に包まれた見たこともない一杯。

ふと、うどん小屋のおばちゃんが現れた。

言葉はなく、ただ静かに、その金色のうどんを俺に差し出す。

俺は、うどんのうつわを覗き込んだ。

湯気がゆらゆらと立ちのぼり、まるで俺の怒りを包み込んでくれるようだった。

怒りはそこに確かにあった。

でもそれはもう、暴力的な熱ではなく、何かを育てるための温もりに変わっていた。

——怒りは、力になる。

でもその力を、どこに向けるのか。

それを決めるのは、自分自身しかいない。

おでの名前はタケルやで!

ちっこいのは最近、正社員になったダイチや。
旅好きなおでは後輩のダイチと
素敵な場所を
探して日々旅をしとるんやで。
ダイチと旅で見つけた
素敵な場所を
『タケルが行く』で紹介していくのでよろしくや!

ータケルの選手名鑑ー
選手名 タケル
ポジション 投手
背番号 16
利き手 右投げ左打ち
出身地 アルゼンチン
好きな食べ物 リンゴ

ーダイチの選手名鑑ー
選手名 ダイチ
ポジション 投手
背番号 14
利き手 右投げ右打ち
出身地 長崎
好きな食べ物 きびだんご

タケルとダイチをフォローする
小説
スポンサーリンク
タケルとダイチをフォローする
タケルが行く

コメント

タイトルとURLをコピーしました