昨夜は比較的よく眠れた気がする。
窓の外では、朝早くからセミたちの大合唱が響き渡っていた。
まるで誰かに聴かせるために、練習しているかのような情熱を感じる。
今日は土曜日。
そして、花火大会の日だ。
俺は屋台の出店を手伝うことになっている。
気温もかなり上がりそうなので、体力が必要な一日になるだろう。
午前中は特に予定がないので、
まずはゆっくりと朝の時間を味わうことにした。
いつものように株価を確認してみると、
今週はどうやら少し下がり気味のようだった。
円高の影響もあるのだろう。
ただ、焦る必要はない。
長期で見ている投資は、日々の上げ下げに動じない方がいい。
気になる動画をいくつか眺めていると、
昨日届いたポータブル電源のことをふと思い出した。
イベント用に購入したものだけれど、
万が一の災害時にも役立つと考えると、持っているだけで少し安心できる。
ソーラーパネルを使っての充電も可能らしい。
今度、晴れた日にでも試してみよう。
ベランダの植物に水をやり、
太陽の光を浴びさせながら、
俺自身も深呼吸をして光を取り込む。
ふと、本を手に取り、読書を始める。
その静かな時間に、自然とまぶたが重くなっていった。
セミの声、扇風機の音、遠くの車の走行音。
いくつもの音が重なって、
どこかへと誘われるように俺は眠りの世界へと入っていった。
やがて目を開けたとき、
見慣れたようで見慣れない天井がそこにあった。
ここはいつもの世界なのか、それとも夢の続きなのか。
スマホを手に取り、時間を確認する。
まだ午前中だった。
現実と夢の境界が曖昧なまま、
俺はしばらくの間、ただ天井をぼんやりと見つめていた。
体は重く、まるで重力に押しつぶされているようで、
簡単には起き上がれそうになかった。
だけど、静かに差し込む光だけが、確かに俺の上に降り注いでいた。
まるで、そこにいることだけでいいと言われているようだった。
しばらくそのまま、再び目を閉じる。
もしかしたら次に目を開けたときには、
違う場所にいるのかもしれない。
次に気がついたとき、俺は元の世界に戻っていた。
さっきいた場所と似ているけれど、何かが微妙に違っている。
そろそろ昼からの屋台の準備に向けて、動き出さなければならない。
昼ごはんも先に食べておこうと思い、近くのコンビニへと向かった。
玄関を開けた瞬間、
強烈な熱気が体中にまとわりつくようだった。
まさに灼熱地獄。
歩いていると、足が少し痺れていることに気がついた。
腰にも違和感がある。
冷凍チャーハンを手に取り、コンビニを後にする。
このチャーハンが、意外と美味いのだ。
家に戻り、皿に盛って電子レンジで温める。
電子レンジを発明した人には、本当に感謝しかない。
文明の力は偉大だと思う。
そうこうしているうちに、出発の時間がやってきた。
いよいよ花火大会の会場へ向かう。
日が落ちるまではまだ時間があるが、
既に外の熱気は体力を奪っていく。
長く、過酷な午後になりそうな予感がする。
会場に着くと、昨日のうちに設営されたテントや機材が整然と並んでいた。
さすがは大規模な花火大会、準備の規模も並じゃない。
俺たちも準備に取りかかる。
普段のイベントとは比べものにならない食材の量に、圧倒されそうになる。
けれど、それでも着実に進んでいくこの空気が嫌いではなかった。
昼に到着したのに、気づけばもう夕方が近づいていた。
開始後の段取りを確認し、あとは始まりを待つだけとなった。
スタート直後は、あまり人の動きがなかった。
やはり暑すぎるのだろう。
しかし、日が傾き、少しずつ空気が和らいでくると、
客足が徐々に伸びていった。
次々に注文が入り、俺たちはひたすら動き続けた。
忙しいけれど、それが逆に心地いい。
無心で焼き、盛りつけ、渡し続けるうちに、
空が一気に暗くなっていった。
そのとき、後方から大きな音が響いた。
打ち上げ花火が始まったのだ。
それはまさに、目の前から打ち上がっていた。
光と音が空を割り、夜の世界を彩っていく。
花火が始まると、客の数は一時的に落ち着いた。
俺も一瞬、手を止めて夜空を見上げる。
疲れた体に、花火の色が静かに染み込んでいくようだった。
音が腹に響くたびに、自分が生きていることを実感した。
やがて花火も終わり、会場は撤収の時間を迎えた。
あたりには、ほどよい疲労と達成感が満ちていた。
この経験はきっと、俺の屋台営業にも役立てられるはずだと感じた。
さあ、帰ろう。
そう思ったところで、まさかの事故による大渋滞に巻き込まれる。
「家に帰るまでが花火大会」
どこかで聞いたようなその言葉が、今夜はいつも以上に沁みた。
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