「これからはこれまでとは違う。私はもうこれ以上誰の勝手な意思にも操られはしない。これから私は自分にとってのただひとつの原則、つまり私の意思に従って行動する。」
ーー村上春樹『1Q84』
涼しい風が窓から入ってくる。
昨夜は熱帯夜だったのが嘘のように、朝の空気はひんやりしていて気持ちいい。
週の真ん中、水曜日。
身体がやけに重たい。どうやら夢の中で、もうひとつの世界を駆けずり回っていたらしい。
カーテンの隙間から外を見れば、モフモフした仲間たちがのんびりと散歩していた。
その光景に、ちょっとだけ癒される朝。
昨晩は、いつも見ているYouTuberの配信を見た。
でも、なんだか昨晩は違った。
無責任な言葉、適当な態度。
「…もうこのチャンネルは今夜で終わりだな」
そうつぶやいて、動画を閉じた。
出勤前、少しだけ海を眺める。
波は静かで、空も青い。
「心だけでも、穏やかでいたいな」
そう思いながら、深く息を吸い込んだ。
あの場所に今日もやってきた。
門の前では、マイクを持ったおじさんが“安全”と“残業”について熱弁をふるっている。
「今日は定時退場日です」って。
「毎日定時で帰らせてよ」
心の中で思わずツッコミを入れる。
両耳イヤホンで歩きスマホの人、
でっかいスーツケースを片手に自転車に乗る人、
一時停止を完全に無視する自転車。
「おじさん、あなたの声、たぶん誰にも届いてないよ…」
部屋の扉には「本日昼休みに草抜きやります」の紙が貼られていた。
「いや、昼くらい、ゆっくり休ませてくれよ…」
それでも俺は、うどん小屋へ向かう。
今週から“ぶっかけうどん”が始まったらしい。
小さな楽しみをひとつ、大事に味わう。
その後は草抜き。
曇り空だけど、じっとり暑い。
ポスターには「熱中症に気をつけましょう!」とあるけど、なんだか虚しい。
黙々と草を抜きながら思う――これって、もうブラック労働だよな。
午後の仕事で、若手にちょっとキツめに注意する。
でも響かない。
なんなら、冷たい視線で返される。
「パワハラ」って言われたら、それで終わりの時代。
だけど最近は、“逆パワハラ”って言いたくなるようなことも多い。
便利になったこの社会。
でも、言いたいことも言えない。
ほんと、難しい時代だ。
仕事を終えて、久しぶりに港へ向かった。
初夏の海風が心地いい。
クラゲたちが、フワフワと泳いでいる。
「おまえら、何を考えて生きてんだ?」
なんて、つい呟いてしまう。
今日もいろんなことがあった。
毎日同じことの繰り返しみたいだけど、少しずつ変化もしてる。
頭の中に、自然と流れてくるあのメロディ。
🎵 言いたいことも言えないこんな世の中じゃ、POISONだぜ
俺は少しだけ笑って、また明日へ向かって歩き出す。
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