「誰とも競争することなく、ただ前を向いて歩いていけばいいのです。もちろん、他者と自分を比較する必要もありません。」
ーー岸見 一郎/古賀 史健『嫌われる勇気』
深夜0時半。
そいつらは、唐突にやってきた。
雨の降るなか、外で円陣を組み、「今日の反省会」とやらを始める。
まったく、声の張りには気をつけているあたり、妙に礼儀正しい。
「今日はありがとう!」
リーダーのかけ声とともに、そいつらは解散していった。
やっと、俺の睡眠もスタートできそうだ。
まだ夜明けまでは時間がある……はずだった。
ところが、今度は誰かが奇声をあげている。
なにがどうなってるんだ。
暑さで皆どうにかなってしまったのか?
考えているうちに、俺はいつの間にか眠っていた。
ふたたび目を覚ましたのは、大雨が大地を打ちつける轟音だった。
朝が来た。
昨夜のあれは何だったんだろう。
とにもかくにも、俺の1週間が始まった。
昨日マルシェで汗をかいて働いていた、カピバラのタケルとダイチは今日はお休み。
俺はというと、あの場所へ向かう準備をしている。
身体が重い。
雨のせいか、気圧が低い。
だが、行かねばならない。なぜかはわからないが。
クルマに乗り込む。
今年いちばんの大雨。
ワイパー全開でも前が見えない。
「これ、ヤバくねーか?」
道はもはや池。
教習所で習った「ハイドロプレーニング現象」が脳裏をよぎる。
案外、俺は冷静だった。
やっとの思いで駐車場に到着。
まだ雨は続いている。
長靴を履き、防水ジャケットを着て、スラックスの裾をまくり、短パン仕様に。
――ちょっとだけ、おしゃれかもしれない。
20分歩いて、ようやくあの場所へ辿り着く。
もう今日の体力を使い切った。
でも、ここまで来れたことがすでに奇跡。
雨雲のように、みんなの表情がどんよりしている。
「ヤバくねーか」とまた呟く。
月曜。
週のはじまり。
すでに疲れてる。
でも、今日は会議が多い。
個性豊かな面々も揃ってる。
笑い袋オヤジ、やれやれおじさん、金髪マッシュルーム……。
とりあえず、外に出て朝の体操。
あの大雨はやんでいた。
これは大地からの試練だったのかもしれない。
ふと、昨日のマルシェを思い出す。
この大雨が昨日じゃなくてほんとうに良かった。
昨日の今ごろは、全集中してたんだっけな。
でも、今日のこの場所じゃ、全集中なんて夢のまた夢。
呼吸すらできない。
修行が足りないのだ。
そして、会議。
次の会議。
その次の会議。
会議、会議、また会議。
でもこれは、会議というより――
ただの座談会。いや、それ以下。
「意見ありますか……なければこれで終わります」
わざわざ集まってこの内容。
若手が何も言わないのも、無理はない。
気づけば、また次の会議。
会議のはしごをして、ようやく昼休み。
よし、うどん小屋へ行こう。
うどん小屋には、いつもの常連メンバー。
ここでは仕事の本音が飛び交っている。
意見交換が活発だ。
――なんだ、うどん小屋がいちばん“会議”してるじゃねーか。
いつものうどんを注文。
でも今日は、油揚げが二枚入っていた。
おばちゃん、ありがとう。
ネギも多め。
俺の表情がよっぽど疲れて見えたんだろう。
うどんでエネルギーを取り戻し、午後の予定を見る。
……会議の文字でびっしりだった。
思わず、俺は叫んだ。
「事件は会議室で起きてるんじゃない!現場で起きてるんだ!!!」
会議、それは時として眠気との闘い。
そして“集まること”が目的になってしまった空間で、俺たちは何を見て、何を語るべきなのか。
でも、油揚げが二枚あれば、また頑張れる気がする。
コメント