「あなたも、信じるものを見つけなさい。あなただけが信じられるものを。他の誰かと比べてはだめ。もちろん私とも、家族とも、友達ともよ。あなたはあなたなの。あなたは、あなたでしかないのよ。」
ーー 西加奈子『サラバ』
木曜日。
目覚めた瞬間、胸の奥が重たくて、息が浅かった。
体の芯に鉛が詰まっているみたいだ。
カーテンの隙間から差し込む光はまだ優しく、
外の空気はひんやりと肌をなでてくる。
ナッツと干し葡萄の朝食を口に運びながら、
思考のスイッチを探している。
冷水を浴びると、身体が少し目覚めた。
それでも、どこか夢の世界の香りが、まだ残っている。
エンジンをかけて車に乗る。
ラジオから「科学と技術の違い」についての話が流れてきた。
「生成と消滅は、宇宙の本質だ」と誰かが言っている。
走り慣れた道の途中、
朝ラーメンの店が営業を再開していた。
あの湯気もまた、一つの“再生”のかたちかもしれない。
ふと気づくと、スマホの充電ができていなかった。
単なる接触不良?
それとも、電気の流れがこの世界のどこかで止まってしまったのか?
誰かが見えないスイッチを切ったのかもしれない。
風が涼しく、日差しは強い。
バス停のベンチに腰掛けると、
どこからともなく甘い香りが漂ってきた。
それは今朝、夢の中でも感じた香りだった。
時刻表を見ると、バスは一日一本。
この街はかつて、造船の街として栄えた。
いや、今もきっとそうだ。
港では、タグボートが戦艦を海へと送り出していた。
黒い煙を吐きながら、巨大な鉄の塊がゆっくりと海へと滑り出していく。
鉄は沈むはずなのに、浮かんでいる。
それは科学であり、技術であり、
そして“人の信じる力”でもある。
もし、誰も信じなかったら──
鉄は沈み、船は生まれなかったかもしれない。
職場でコーヒーを淹れた。
湯気に包まれて、朝の香りが再び胸をくすぐる。
世界は今日も、たくさんのニュースで溢れている。
事件、災害、経済、戦争。
すべてが人の営みの結果であり、
理不尽という名の渦の中にある。
この世界で、
何を信じ、どう生きていくか。
科学か、技術か。
それとも、ただ一人の声か。
空を見上げる。
さっきまで曇っていた空の隙間から、陽の光が差し込んだ。
俺はまだ、信じるものを探している。
あなたが信じるものは、なんですか?
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