第七十話「風に乗れた者たちの物語」

小説
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外野からバックホームが返ってくる。

捕球、そして滑り込む。

間一髪でセーフ。

空気が、一瞬止まったようだった。

俺はその場面を、息をのんで見つめていた。

ふたたび、鋭い打球が外野へ舞っていく。

次に何が起こるのか、それは誰にもわからない。

そして、目が覚めた。

アラームの音とともに、現実へ戻っていく。

どうしてだろう。

眠ると、時間がいっきに飛んでしまう。

夢と現実の境目は曖昧なまま、気がつけば朝になっていた。

カーテンを開ける。

久しぶりの雨が、静かに降っていた。

傘を忘れないようにしなきゃ……そんなことを考える。

玄関を出て、車に乗る。

ボンネットに当たる雨音が、やわらかく耳に響いてくる。

エンジンをかけると、いつもの朝がまた始まっていく。

車のラジオをつける。

「今日のテーマは、“人はなぜ飛ぶことを決めたのか”」

空と飛行機の物語だった。

空への挑戦は、いつも命と背中合わせ。

昔、人は鳥になりたかった。

羽を作って、空に夢を重ねていた。

ただの夢じゃなかった。

科学が、その夢を少しずつ現実に引き寄せていった。

語られていたのは、あの有名な芸術家。

彼は発明家でもあり、空のスケッチを描いた人でもあった。

18世紀の終わり。

熱気球が、初めて空を舞った。

紙職人たちの手が、その第一歩を生み出していた。

その後、動力をもった飛行船が登場し、

空はついに「移動の道」へと変わっていった。

飛行機とは、動力があって、翼があるもの。

グライダーも熱気球も、その仲間に入る。

ただしヘリコプターは違う。あれは翼ではなく、回転するローターだからだ。

空を飛びたいという情熱は、数えきれない挑戦と失敗に支えられていた。

そうしてようやく、「飛ぶ」という当たり前が生まれた。

でもその当たり前は、当たり前じゃなかった時代があった。

それを知ると、今見えている世界の色が少しだけ変わってくる。

ラジオはとある兄弟の話へ移っていった。

人が空を飛ぶことに成功したあの日、空はもう夢ではなくなっていた。

気づけば、目的地が近づいていた。

窓の外では、相変わらず雨が降っている。

湿気を含んだ空気が、じっとりとまとわりついてきた。

まるであの場所が、俺の足を遠ざけようとしているみたいだった。

それでも、前に進む。

門をくぐり、傘を広げる。

けれど風が強くて、雨がどこからともなく吹き込んできた。

ズボンはすぐに濡れてしまった。

空では、雷が低く鳴っていた。

夏の熱気を、雨がゆっくりと冷ましているようだった。

はじまりの鐘が鳴る。

外に出て体を動かすが、水たまりがあちこちに広がっていた。

空と同じように、気持ちもどこか沈んでいた。

午前中、学習発表会の講評がまわってきた。

思っていた以上に、厳しい内容が書かれていた。

今日は……見なかったことにしよう。

そういう日があっても、いいと思えた。

昼前、うどん小屋の鐘が鳴る。

雨は、いつのまにか止んでいた。

風がまだ強くて、空気はひんやりしていた。

うどん小屋にたどり着き、きつねうどんを注文する。

新しく入ったおばちゃんも、すっかり慣れてきたようだった。

麺をお湯でほぐし、湯気とともに出汁の香りが立ちのぼっていく。

油揚げ、かまぼこ、ネギ。

そしてもう一枚、油揚げをそっと添えてくれた。

「ありがとう」

思わず、声が漏れていた。

うどんを食べ終え、またいつもの場所へ戻る。

今週も、あと二日。

明日を越えたら、大型連休が待っている。

イベント出店がある。

タケルとダイチも、楽しみにしている。

家に帰ったら、準備を少しずつ始めよう。

道具やコーヒー豆、忘れ物がないように。

それまでは、無理せず体力を温存しておきたい。

午後の静けさに包まれながら、

俺は眠気に誘われ、まぶたを閉じた。

向こうの世界でも、雨が降っていた。

でもその向こうに、かすかな光が見えていた。

この世界では、まだ誰も空を飛んだことがないらしい。

どうやったら飛べるのか、みんなで輪になって話していた。

その輪の中心に、うどん小屋のおばちゃんがいた。

白いエプロンが風に揺れていた。

あの穏やかな笑顔は、現実と変わらなかった。

「夢はね、見るだけじゃ足りないよ。叶えなきゃ。

 でもね、叶えるには、“誰かと見ること”が大事なんだよ」

おばちゃんは、そう言って周りをゆっくり見渡した。

その隣には、あのレオナルドがいた。

彼の手には、羽ばたく翼のスケッチ。

未完成の図面は、今にも動き出しそうだった。

風が吹く。

雲の切れ間から、光がこぼれていく。

その先には、まだ見ぬ空が広がっていた。

きっとこの世界でも、空は飛べる。

そんな気がしていた、そのとき。

「おい、準備できてるぞ!」

タケルの声が聞こえてきた。

振り返ると、飛行帽とゴーグルをつけたタケルとダイチが立っていた。

「どこへ行くの?」

俺が訊くと、ダイチがニヤリと笑って言った。

「決まってる。空の向こうさ」

ふたりは、風のように駆け出していく。

俺もすぐに、その背中を追った。

夢の空が晴れていく。

その先には、まだ知らない自由が広がっていた。

現実の空も、きっと今ごろ晴れ間を見せている。

そしてまた、明日がやってくる。

さあ、飛ぼう。

大空は、もうすぐそこにある。

おでの名前はタケルやで!

ちっこいのは最近、正社員になったダイチや。
旅好きなおでは後輩のダイチと
素敵な場所を
探して日々旅をしとるんやで。
ダイチと旅で見つけた
素敵な場所を
『タケルが行く』で紹介していくのでよろしくや!

ータケルの選手名鑑ー
選手名 タケル
ポジション 投手
背番号 16
利き手 右投げ左打ち
出身地 アルゼンチン
好きな食べ物 リンゴ

ーダイチの選手名鑑ー
選手名 ダイチ
ポジション 投手
背番号 14
利き手 右投げ右打ち
出身地 長崎
好きな食べ物 きびだんご

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