どこかのショッピングモールに来ていた。
広い店内をぶらぶらと歩く。
今日は昼ごはんを食べに来たが、まだ時間には少し早い。
巨大なショッピングモールを一周してみると、吹き抜けの空間に子どもの笑い声が反響し、パン屋の甘い香りが漂ってきた。
あちらこちらから聞こえる買い物袋のこすれる音やアナウンスが、夏休みのにぎわいをさらに際立たせている。
…タイヤが水たまりを通る音で目が覚めた。
車の下をくぐる雨音が低く響く。
一瞬、今日が何日なのか、今がどこなのかを考える。
そうだ、俺の夏休み二日目。
しかも今日はイベント出店の日だ。
天気予報通り、窓の外では細かい雨粒が斜めに降っている。
まだ出発まで少し時間がある。
目を閉じると、意識は別の世界へ滑り込んだ。
そこは海のある街。
潮の香りと冷たい風が頬をかすめる。
港には南極観測船が入港している。
白い船体は曇り空の下でも凛としていた。
そして、その向こうからメジャーリーグのスーパースターが犬を連れてこちらに向かってくる。
歩みはゆっくりだが、纏う空気が違う。
オーラが空気を震わせる。
思わずスマホを取り出し、写真を撮ってもらった。
近所の知り合いのおじさんにも偶然出会い、自慢げに写真を見せたが、どうにも興味がなさそうだった。
元の世界からアラームが響き、現実に引き戻される。
「よし、起きよう」
出発前に荷物の最終チェックをする。
忘れ物はない。
外は小雨。
土砂降りじゃないのがありがたい。
雨の匂いが少し甘く、夏の湿った空気を感じさせる。
イベント会場に着くと、そこは屋根付きのスペースだった。
駐車場に打ち付ける雨音を聞きながら、心の中で小さくガッツポーズをする。
荷物を下ろし、テントを立てる。
夏にしては涼しい空気だが、やはり動けば汗はにじむ。
設営が終わる頃には、心も身体もエンジンが温まっていた。
雨の中でもお客さんは次々にやって来る。
せっかくの夏休みなのに天気は味方してくれなかったが、そのぶんここで過ごす時間を思いきり楽しんでもらおう。
屋根の外では水たまりが広がり、通り過ぎる車のタイヤが水をはね上げる音が響く。
雨足は少し強くなったが、お客さんの笑顔は湿気を吹き飛ばす力を持っていた。
差し入れにフランクフルトをいただく。
湯気とともに漂う香ばしさが、胃の底をくすぐる。
腹が減っていたこともあり、うまさが倍増する。
顔見知りの出店仲間さんと近況を話し合い、笑い合ううちにイベントはあっという間に終わりの時間を迎えた。
撤収も雨の中だったが、屋根があるおかげで作業はスムーズ。
車に荷物をすべて積み込み、最後に出店場所を見回す。
水滴が落ちるアスファルトも、荷物を置いていた床も、来た時よりきれいになっている。
小学校の修学旅行で教わったあの言葉――「来た時よりも美しく」――がふとよみがえる。
それは、ただのマナーじゃなく、その場への感謝の証のようにも思えた。
帰り道、カフェに立ち寄り、丁寧に淹れてもらったカフェラテでホッと一息。
うまい。
身体にじんわり染み渡る。
晩ごはんはラーメンにしよう。
家に着くと、プロ野球のデイゲームの結果を確認する。
応援しているチームが勝っていた。
夏休み二日目は、雨にもかかわらずいい一日になった。
ビールを開け、今夜はゆっくりと過ごすことにした。
コメント