「大きなこと百個言って、ひとつでも叶えたら、『あの人すごい』になる。だから日頃から口に出して種をまいておくことが重要なのだ。」
ーー宮島未奈『成瀬は天下を取りにいく』
朝、目を覚ますと小鳥たちの囀りがやさしく窓を叩いていた。
薄曇りの空はどこか気だるく、でも雨の気配はなかった。
身体の重さは、もう長年の友人のようなものだ。軽くはならないが、付き合い方はわかってきた。
今日はイベントの日。
カピバラのタケルとダイチも、朝からそわそわと落ち着きがない。彼らはこういう日をよくわかっている。
会場は、五重塔のそびえる美しい風景の中にある広場。
山から吹く風が心地よく、気温も穏やか。まさに、天が味方してくれたような天気だった。
荷物を車に積み込み、最終確認をして出発。
到着すると、スタッフや出店者さんがすでに集まり始めていた。
「おはようございます!」
元気な挨拶が飛び交う。
この瞬間が好きだ。準備のざわめき、テントを立てる音、商品を並べる手つき、ひとつひとつが、今日という日を祝っているように思えた。
そしてイベントがはじまった。
最初の一組がやってくる。
「はじめまして!」
「去年も来たんですよ!」
「タケルくんとダイチくんに会いに来ました!」
なんて、うれしいんだろう。
小さな笑顔が次々とやってきて、会場は一気にあたたかくなった。
再会する人もいれば、初めて会う人もいる。
わんちゃん連れの人々も多く、タケルとダイチは大人気だった。
出店者の仲間たちも、みんな素敵だ。
会場のあちこちで「久しぶり!」という声が飛び交う。
大変なこともあるけれど、こうして同じ空の下に集えることが、どれだけありがたいことか。
イベントは大盛況のうちに幕を閉じた。
設営の時よりも、心なしか身体が軽い。
疲れはあるけれど、それ以上に満たされた気持ちがある。
帰り道、こってりラーメンを食べて、ビールでひと息つく。
「うまいなあ……」
明日からまた平日がはじまる。
でも、この余韻はしばらく胸に残りそうだ。
きっと、また頑張れる。
すべての出会いに、ありがとう。
この街に、この空に、そして——
今日、ここにいてくれたあなたに。
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