「愛(LOVE)は動詞なのです。愛という気持ちは、愛するという行動から得られる果実です。」
ーースティーブン・R・コヴィー『7つの習慣』
朝、目が覚めた瞬間から、空は泣いていた。
雨は容赦なく窓を叩き、重たい空気が部屋の隅々まで染み込んでいた。
息苦しさと鈍い頭痛がまとわりつく。火曜日。逃げることのできない現実の中へ、今日も歩みを進める。
お気に入りの長靴を履いて玄関を出た。
昨日発生した仕事のトラブル、朝から対応しなければならない。
「さぁ、かかってこい」
心のどこかでつぶやく。どうせ避けられないなら、真正面から向き合うだけだ。
人生のあらゆる出来事は、俺を育ててくれるのだから。
コンビニでキリマンジャロのコーヒーを手に取る。
名前だけで、少しだけ気分が上がる。タンザニアの標高5895メートル。アフリカ大陸の最高峰。
「最高峰」っていい言葉だ。
自分も何かの、誰かの、何気ない一日の“最高”になれるだろうか。
ふと、道の真ん中にスッポンがいた。
雨の中でこちらを見上げるその姿に、少しだけ笑ってしまう。
回り道しよう。焦る理由もない。
その先は、やっぱり大渋滞。
みんな今日も懸命に生きている。車の窓越しに見える顔は、それぞれの事情と感情を抱えていた。
ようやく会社に着く。
湿った空気は、職場の重たい沈黙と混ざり合い、胸を圧迫してくる。
「挨拶だけしてればいい」という空気。
果たして、それで本当に人と人がつながっているのか。
形式のための言葉に、心はあるのだろうか。
デスクに座り、パソコンの電源を押す。
今日も、機械だけは素直だ。――と、思ったら起動にやたら時間がかかる。
「調子が悪いのか、おまえもか」
メールを開けば、未読が雪崩のように襲ってくる。
誰が考えたんだ、この無限のやりとりを。
パソコンは人を豊かにした。そう言われている。でも、本当にそうなのか?
問題はいつだって“使う側”にある。
技術が進みすぎて、人間が追いついていない。
時代は変わった。
でも、人の根っこは、そんなに変わっていないのかもしれない。
それなのに、全員が「変わらなきゃ」と言われ続ける。
進歩に追われて、自分を見失いそうになる。
任せるということの難しさ。
育てるという概念の違和感。
「時代が違う」と言われればそれまでだ。
でも、その“違う時代”を歩んできた人たちがいるから、今の自分がここにいる。
無駄だったことなんて、きっとひとつもない。
たくさんの「課題」を抱えた一日が終わった。
海が見える場所まで歩く。
雨は止んでいた。
港には、大きな船が停泊している。
「あぁ、あの船に乗って、どこか知らない場所へ行ってみたいな」
そう思うたびに、今日の自分に「よくやった」と小さくつぶやく。
それだけでも、まだ明日へ進める気がする。
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