「運が劇的に変わるとき、そんな場、というのが人生にはあるんですよ。それを捕まえられるアンテナがすべての人にあると思ってください」
ーー喜多川泰『運転者』
深夜、サイレンが遠くで鳴り響いていた。
窓を打ちつける大雨の音。
水たまりを通る車が、バシャリと音を立てていく。
昨晩は雨と音とで、何度も目を覚ました。
だけど朝、目を覚ますと、雨はもう止んでいた。
今日のマルシェ、開催できそうだ。
カピバラのタケルとダイチも、すっかり準備万端でやる気をみなぎらせている。
天気予報を確認する。
しっかりと、あの雨マークは晴れマークに変わっていた。
最高気温31度。熱中症には十分注意が必要だ。
マルシェに持っていく荷物の最終確認。
コーヒー豆も氷もばっちり積み込んだ。
帽子も忘れないように。
外に出ると、昨夜の雨の名残が町中にあふれていた。
木々にはキラリと光る雨粒、大地の空気は一掃されて澄み切っている。
そこにやさしく降りそそぐ朝の太陽。
まるで「今日を楽しんでおいで」と語りかけてくるようだった。
風が意外と強い。
会場に着いて、テントを立てていると、ミストのような雨が少しだけ降った。
だけどそれもまた気持ちよく感じる。
マルシェの始まりとともに、太陽が顔を出す。
照りつける日差し。
テントの中はちょっとしたサウナだ。
だけど風があるおかげで、なんとか持ちこたえられる。
そして——
昨日、偶然立ち寄った近くの店で話した方が、マルシェの会場でまた声をかけてくれた。
「昨日お話ししたの、覚えてますか?」
もちろん。まさかまた会えるとは。
ほんの一瞬の出会いが、こんなふうにまた笑顔へつながる。
たまたま、なんて言葉では片づけられないような、温かい奇跡。
世間は狭い。だからこそ、日々の出会いにちゃんと感謝したい。
今日もたくさんの人がコーヒーを手に取り、笑顔を見せてくれた。
「おいしかったです」と、わざわざ戻ってきてくれた方もいた。
その一言に、心の奥がじんわり熱くなる。
一杯のコーヒーが、人を笑顔にする。
それが何よりもうれしい。
強風との戦いではあったけれど、
出店者同士で支え合いながら、今日もすてきな時間を過ごすことができた。
いつも思う。
自分にできることは、ほんのささいなことかもしれない。
でもそのささいなことの積み重ねが、
こうして誰かの“ちょっとした幸せ”につながっていくのなら——
それだけで十分だ。
あっという間に夕方。
荷物を片づけて、こってりのラーメンで一日を締めよう。
そういえばプロ野球は今日はデイゲームだったな。
スマホで確認すると……
「おい、大逆転負けしてるじゃないか!」
まあ、そんな日もある。
今日という日は、もうすでに十分に特別な日だったから。
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