「遅れをとっても、何もしないよりいい」
ーースペンサー・ジョンソン『チーズはどこへ消えた?』
深夜2時。
今年初の熱帯夜。俺はその暑さで目を覚ました。
まだ6月中旬。だがこの蒸し暑さ、十分すぎるほど夏だ。
窓を少し開けると、カエルの鳴き声とともに涼しい風が吹き込んできた。
「よし、これで朝まで眠れそうだ」
そう思い、再び目を閉じた。
やがて朝が来る。
扇風機を回しながら身支度を整え、車に乗り込む。
ラジオからは戦国時代の話が流れていた。
今川義元、毛利元就、織田信長、斎藤道三、武田信玄、上杉謙信、豊臣秀吉、そして徳川家康。
命を賭して時代を動かした名将たち。
彼らはなぜ戦ったのか。
「一生懸命」とは、命を懸けて生きること。
彼らは本当に“命懸け”で、自分の信じる道を切り拓いていたのだろう。
だが、ふと思う。
今この時代も、形こそ違えど“戦国”なのかもしれない。
たとえば、俺が向かう“あの場所”。
タイムカードを押す瞬間、空気が一気に戦場に変わる。
あらゆる殺気をかわし、無言の圧力に耐える。
上司の一言が、部下を飛び越えて下の人間に届き、そこから不満が生まれる。
まさに“内紛の連鎖”。現代の戦国。
だが、忘れてはいけない。
どんな時代も、争いの中心にいない大多数の人たちは、ただ巻き込まれているだけなのだと。
それでも、俺は今日を生き抜く。
組織にも扇の要が必要だ。
要が折れれば、すべては崩れる。
この戦国を生きるために、俺は俺の武器で戦うしかない。
昼休み。
うどん小屋を目指して外に出ると、太陽が容赦なく照りつけてきた。
「うどんのおばちゃん、今ごろどこで暮らしてるんだろうな」
いつの間にか、あの場所にあるうどん小屋からおばちゃんは消えていた。
もしかしたら、別の地で天下統一でも果たしてるのかもしれないな。
争いのある世界。
理想は、争いのない世界。
現実と理想のはざまで、今日も俺は静かに時を過ごす。
慌てず、目立たず、穏やかに。
ナイターのある火曜日。
光るスタジアムの明かりのように、
小さな希望が、きっとこの戦国を照らしてくれる。
それでも俺は、俺の戦を今日も続ける。
戦わずして、明日はないのだから。
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