第五十八話「五重塔の下で交わす声」

小説
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小鳥とセミが、早朝から合唱をはじめていた。

まるで夏のコンクールに向けた最後の追い込みみたいだ。

俺は古い木造校舎の中にいた。夏休み中の学校には、生徒の姿はなく、静けさが支配している。

まるで、生徒たちがこの世界から一時的に消えてしまったかのようだった。

木枠の窓からは、絵に描いたような夏空が広がっていた。

誰もいない校舎に響く合唱の練習の音が、夢の続きのように残っている。

それと同時に、俺は目を覚ました。

今日は夜市がある。

それまでの時間、海でも見に行こう。

ちょうど港でラジオ体操もやっているらしい。

今日のラジオの話題は「飽き」について。

人はなぜ飽きるのか——。なかなか興味深いテーマだ。

飽きることは悪いことなのか、それとも必要なことなのか。

本を書くというのは、後悔の連続でもある。

「なぜあの話を入れなかったのか」と思うし、「ここはもっとこうできたんじゃないか」と思う。

喋っていても、飽きる瞬間はやってくる。

同じ話を何度もしてしまい、自分でも嫌になることもある。

テーマは違っても、どこかで同じことを繰り返しているような感覚。

それが「飽き」なのかもしれない。

でも、「飽きること」そのものについて考えていると、不思議と飽きない。

人間って、おもしろい生き物だなと思う。

港に着いた。

今日はやけに風が強い。いや、爆風と言ってもいい。

海には白波が立ち、フェリーも少し揺れているようだ。

それでも、島へ向かう船は時間通りに出港していく。

「お気をつけて、いってらっしゃい」

思わず、そんな言葉が口をついて出た。

風は強いが、それがまた気持ちいい。

ラジオ体操の参加者たちが、次々と港に集まってくる。

お互いに挨拶を交わしながら、音楽が流れ始めた。

ラジオ体操、第一。

大人も子どもも、ちゃんとリズムに合わせて体を動かしている。

しっかりやると、意外と疲れる。

汗が流れてきたけど、それがまた気持ちよかった。

体操のあとは、地域の人たちとの情報交換。

「今度あの店、営業時間が変わったらしいよ」とか、

「隣町で小さなマルシェやるらしい」とか、

そんな小さな情報も、生活のリズムのひとつになる。

みんな、それぞれの土曜日へと歩いていった。

俺は今夜の夜市の準備へと動き出す。

途中、道の駅に立ち寄り、大好きな海苔を手に入れた。

この海苔でおむすびを作ったら、間違いなく最高だ。

風は相変わらず爆風のまま。

夜市の時間までには、少しおさまってくれるといいのだが。

足りない小物を買い足すために百均にも寄った。

今の百円ショップは、本当にクオリティが高い。

「これが百円でいいのか」と思うくらいだ。

とはいえ、探しているものが意外と見つからなくて、ちょっと焦る。

必要なものはなんとか揃え、ようやく家に戻る。

遅めの朝ごはんは、昨夜の炊き込みご飯と、そうめん入りの味噌汁。

ホッとする味だった。

少し横になって、夜市に備えることにする。

目が覚めると、すでに出発の時間。

「よし、行こう」

五重塔が見える夜市会場へと向かった。

到着すると、すでに出店者さんたちが準備に取りかかっていた。

昼の一番暑い時間帯からの作業。

けれど今日は、風が味方になってくれている。

夏の陽射しの中、汗をかきながら、テントを張り、コーヒー器具を並べていく。

お客さんもぽつぽつと集まりはじめた。

暑い中、それでもコーヒーを飲みに来てくれる人がいる。

それが、ほんとうにうれしい。

やがて陽も傾き、夏の夕暮れがやってくる。

俺はこの時間が好きだ。

陽射しに耐えた人たちが、やさしい風に包まれるような時間。

少しだけ静けさが戻ってきて、空気が落ち着く。

五重塔のシルエットが、夕闇のなかに浮かび上がる。

幻想的な景色だ。

出店者さんたちも、忙しさの合間に笑顔を見せていた。

お互いの工夫やアイデアを交換しながら、情報が行き交う。

こういう場にこそ、情報公開の価値があるのかもしれない。

必要な人に、必要な情報が、ちゃんと届く。

誰かが知っていたことを、別の誰かが受け取る。

それだけで、ずいぶん世界は豊かになる。

夜市も、終わりの時間を迎えた。

静かな夜に、笑い声と風の音が残っていた。

片付けを終え、出店者さんたちにあいさつをして、俺も家路につく。

疲れているはずなのに、足取りは軽かった。

そして家に戻る前に、いつも夜市で買って帰る、大好きな焼きそばを一つ。

ソースの香りと、ほんのり焦げた麺の香ばしさが、たまらない。

ベンチに腰掛けて、一口食べる。

うまい。やっぱり、うまい。

この一口のために、またがんばれる気がする。

今年の夏の夜に、小さな思い出がひとつ、また増えた。

おでの名前はタケルやで!

ちっこいのは最近、正社員になったダイチや。
旅好きなおでは後輩のダイチと
素敵な場所を
探して日々旅をしとるんやで。
ダイチと旅で見つけた
素敵な場所を
『タケルが行く』で紹介していくのでよろしくや!

ータケルの選手名鑑ー
選手名 タケル
ポジション 投手
背番号 16
利き手 右投げ左打ち
出身地 アルゼンチン
好きな食べ物 リンゴ

ーダイチの選手名鑑ー
選手名 ダイチ
ポジション 投手
背番号 14
利き手 右投げ右打ち
出身地 長崎
好きな食べ物 きびだんご

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