タケルとダイチ

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小説

第七十六話「地球の呼吸に抱かれて」

台風が近づいている。 日本近海で生まれた渦は、目に見えぬ力で大気をかき回し、ひとつの世界を揺らしている。 最近では、突如として姿を現す台風も珍しくない。 地球温暖化のせいだと人は言う。 けれど思う。 地球の歴...
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第七十五話「つまらないはおもしろい」

つまらないは 隙間のようだ 誰も気づかぬ 影のようだ けれど その中に 小さな芽がひっそりと息づいている なぜつまらないは つまらないのか それを考えるとき すでに心は遊んでいる 退屈は おもしろ...
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第七十四話「木陰のベンチと風の約束」

ふたたびここに言葉を置く 身体がやけに重たくて 地球の重力が少しだけ増したような気がする 待つ人を思い浮かべながら 日差しの下、木陰のベンチに腰を下ろす まだ時間はある だから、ただ待つ 夏の日差...
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第七十三話「雨の日イベントと来た時よりも美しく」

どこかのショッピングモールに来ていた。 広い店内をぶらぶらと歩く。 今日は昼ごはんを食べに来たが、まだ時間には少し早い。 巨大なショッピングモールを一周してみると、吹き抜けの空間に子どもの笑い声が反響し、パン屋の甘い香り...
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第七十二話「凪ぎの朝、夏がゆっくり動き出す」

午前四時。 目覚ましよりも早く目が覚めた。 今日から大型連休が始まる。 初日は沖に出ると決めていた。 まだ寝静まった家をそっと抜け出し、車に乗り込む。 エンジンをかけ、港へ向かった。 外はまだ夜の中。 ...
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第七十一話「カピバラ警備員、銀行トラブルに出動せよ」

朝を迎えた。 さっきまで向こうの世界にいたような感覚が残っているが、記憶は曖昧で、ただ身体が重たい。 今日を乗り越えれば、いよいよ大型連休が始まる。そう思うと、ほんの少しだけ力が入る気がした。 「起きよう、起きなければ」...
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第七十話「風に乗れた者たちの物語」

外野からバックホームが返ってくる。 捕球、そして滑り込む。 間一髪でセーフ。 空気が、一瞬止まったようだった。 俺はその場面を、息をのんで見つめていた。 ふたたび、鋭い打球が外野へ舞っていく。 次に何が...
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第六十九話「真白な世界に刻まれた約束」

土砂降りの中、俺はどこかの講習会場にいた。 靴はびしょ濡れで、足元が重い。 会場にはちらほら顔見知りもいたが、なぜここにいるのか思い出せなかった。 講義が始まるらしい。スライドに映し出されたのは、見覚えのある“顔”だった...
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第六十八話「怒りを力に」

気がつくと、さっきまでいた世界の記憶が抜け落ちていた。 何をしていたのか、誰と話していたのかすら思い出せない。 ただ、気づけば朝だった。 もうすでに身体は重く、疲労がまとわりついている。 あぁ、あの場所には行きたく...
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第六十七話「定まる視点、揺れないシートポジション」

俺はスポーツカーに乗ろうとしていた。 シートに体を沈めてみるが、どうにも落ち着かない。 純正のままでは、どうやら俺の体型には合わないらしい。 店員が「これ、交換できますよ」と言って、手際よくシートを外し、別のシートを持っ...
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