喉の渇きで目が覚めた。
窓を開けると、夜の熱気がまだ少し残っていた。熱帯夜だったんだと思う。
少しぼんやりしながら、水を飲み、ゆっくりと目を覚ましていく。
SNSの投稿はこれで1001件目。節目のような朝。
今日はイベントの日。タケルとダイチも準備万端で、麦わら帽子をかぶってこっちを見ている。
会場に着くと、少し雲がかかっていて、気持ちのいい風が吹いていた。
出店者さんにあいさつを交わして、準備が始まる。
「おはようございます、今日もよろしくお願いします」
出店者さんたちの顔を見ると、不思議と気持ちが落ち着く。
設営を始めると、やっぱり暑い。
じわじわと汗がにじんできて、でも身体が動くのは、どこか楽しいからかもしれない。
タケルとダイチも、自分なりにお手伝いしてくれる。
会場のすぐそばには五重の塔があって、見晴らしもいい。
田んぼの緑が風に揺れていて、セミの声がにぎやかに響いてくる。
こんな場所で過ごせることが、なんだかうれしい。
お客さんが少しずつ会場に入ってくる。
まだ午前の早い時間。空気には涼しさが残っていて、木陰にはやさしい風が通っていた。
「おはようございます」
「アイスコーヒーをひとつお願いします」
そんなやりとりを交わしながら、豆を挽いて、ハンドドリップで丁寧に淹れていく。
湯気とともに立ちのぼる香りが、ほんの少し空気に混ざっていく。
少し手が空いたタイミングで、向かいの出店者さんのピザが焼き上がった。
生地のふちがパリッと香ばしく、チーズはとろりと伸びる。
焼きたてをいただいて、木陰でひと息。
身体の中に、ゆっくりとエネルギーが戻ってくる感じがした。
そのあと、かき氷を買った。
氷の透明感と、ほんのり光るシロップの色が夏の光に映えて美しい。
ひと口すくって口に入れると、細かく削られた氷がふわっと溶けて、体の芯まで冷たさが届いた。
そして、もうひとつ。
テーブルに並んでいたクッキーに目がとまる。
厚めに焼かれたそのクッキーは、見た目からしてただものじゃない。
小麦と発酵バターの香りがふんわりと立ちのぼり、袋越しにもその存在感が伝わってくる。
ひとつ口にすると、ザクッとした歯ごたえのあとに、ほろりとした口どけ。
クッキーの香ばしさと、やさしい甘さが広がって、余韻まで心地よい。
イベントに来ているというより、季節の中をゆっくり歩いているような時間だった。
マルシェの空気は、いつも心を少しやわらかくしてくれる。
昼が近づくと、日差しもだいぶ強くなってくる。
「暑いですね」と出店者さん同士で声をかけ合いながら、それぞれがそれぞれの場所でがんばっている。
お昼ごはんは冷麺にした。よく冷えたスープが、身体の奥まで染みわたっていく。
合間には、いろんな出店者さんと話をした。
それぞれの工夫や取り組みを聞くのは、ほんとうに勉強になる。
次のイベントに向けて、また少し視野が広がった気がした。
イベントが終わりに近づくと、少しずつ片付けが始まる。
陽射しは今日いちばんの強さだったけれど、どこか心地いい疲れがあった。
最後のお楽しみは、俺の大好きなお店のホルモン焼きそば。
タレがしっかり絡んだ麺と、ホルモンのコク。ひと口ごとに今日を振り返るような味がした。
すべて片づけて、車で家に戻る。
焼きそばのパックを片手に、荷物を降ろし終えた瞬間、大粒の雨が降り始めた。
急なゲリラ豪雨。イベントの時じゃなくてよかったと、心から思った。
濡れた庭に立ち尽くしていると、雨がやんで、雲の隙間から夕陽が差し込んできた。
冷えた地面に柔らかな光が落ちて、風がすっと通り抜ける。
ああ、今日もいい日だったなと思う。
スマホを見ると、応援していたチームはサヨナラ負け。
でも、今日はなんだかそんなことも受け止められる。
たくさんの人と話して、たくさんの美味しいものを食べて、ちゃんと生きてる感じがした。
今日も、ごちそうさまでした。
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