第四十一話「ストレスと一杯のラーメン」

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あっちの世界のあの場所にいた。

ここにも、あの場所があったのか。

俺は、言葉にならない絶望感に襲われた。

脳の奥に、何か黒く重たいものが沈んでいくような感覚。

夜明けと共に目が覚める。

布団の中でしばらく動けなかった。

どうも心も身体も重い。

週の真ん中、水曜日。

のどの奥が締めつけられているようだ。

部屋にこもった湿気まじりの空気を、扇風機で全開に押し出す。

でも俺の中の重たいものまでは、風じゃ運べない。

それでも何かを動かしたくて、スイッチを押した。

スマホを手に取り、昨夜のナイターの結果を見る。

また逆転負けか。あぁ、厳しい試合だった。

思わずため息が漏れる。

アメリカの市場は夜に動く。

経済ニュースが淡々と流れてくる中、

「このままアメリカが世界を支配し続けるのか」なんて、哲学めいたことを考えていた。

でも未来なんて、誰にもわからない。

ただ、今をなんとかやり過ごすことしか俺にはできなかった。

車に乗り込むと、ラジオが流れ始めた。

今日はイギリス王室の話。

エリザベス一世――かつて世界の覇権を握っていた国の女王。

彼女は10歳にして4ヶ国語を操ったという。

「二重翻訳法」なんて言葉も飛び出して、思わず眉をひそめる。

勉強がストレス解消だったという彼女の話を聞いて、俺はちょっとだけ嫉妬した。

でも、そんな彼女もストレス性胃炎になったらしい。

王族だって人間だ。

なんだ、俺と同じか――

そう思ったら、少しだけ救われた気がした。

あの場所がある街に着く。

見上げると、曇り空の下に、カラスが電線に列をなしていた。

まるで俺を見下ろしているようで、居心地が悪い。

あの場所の門の前にはあいかわらず人が立っている。

長袖長ズボン、ヘルメット。

熱中症に気をつけましょうと書かれたプラカードを掲げているその姿が、なんだか滑稽に見えた。

でも、その滑稽さが、かえってこたえる。

矛盾ってのは、あの人たちのためにある言葉なんじゃないか――

そんなことをぼんやり思った。

梅雨が明けて、気温はすっかり夏だというのに、海には靄がかかっていた。

朝の鐘が鳴る。

それが合図のように、心の奥がザワつく。

イライラが湧き上がってくる。いや、湧き上がるというより、溢れ出す。

胃に穴があきそうだった。

もしかしたら、もうあいてるのかもしれない。

そう思いながら、ふとラジオで聞いたエリザベス一世の顔が浮かんだ。

彼女が感じていたストレスに比べれば、

あの場所でのストレスなんて、本当に些細なことなのかもしれない。

そう思うと、少しだけ、自分を保てた。

でも、現実は変わらない。

俺の戦いはまだまだ続く。

周りは敵ばかり。

それでも俺は、ここにいなきゃならない理由がある。

うどん小屋の鐘が鳴った。

その音が、唯一俺の心をほどく。

まずは塩分。今日は糖分も欲しい。

うどん小屋で、いつものあつあつうどんをすすった。

出汁の香り、もちっとした麺、

それだけで、心がほぐれていくのがわかった。

「ああ、やっぱり、食べるってすごいな」と思う。

身体が、そして心が、少しずつ蘇っていく。

とりあえず、一旦、あっちの世界へ――

でも今日は、あっちの世界に呼ばれなかった。

どうやら、あの場所に対するストレスが強すぎるようだ。

いかんいかん、と自分に言い聞かせる。

そもそも、なんで俺はこんな場所でこんなにストレスを溜めてるんだ?

「適当でいいんだよ」

そんな声が、どこか後ろから聞こえた。

振り向いたが、誰もいなかった。

前を向くと、机の上に一杯のラーメンが置かれていた。

うどん小屋のうつわに、本格醤油ラーメン。

まさか…

まさか、うどん小屋のおばちゃんが、俺のために――?

言葉にならなかった。

湯気が立ち上るその一杯を、そっとすすった。

うまい…

心に染み渡るような、優しい味だった。

そして、不意に一粒の涙が、頬をつたってラーメンのうつわに落ちた。

うどん小屋のおばちゃん、醤油ラーメンが…

塩ラーメンになっちまったよ。

おでの名前はタケルやで!

ちっこいのは最近、正社員になったダイチや。
旅好きなおでは後輩のダイチと
素敵な場所を
探して日々旅をしとるんやで。
ダイチと旅で見つけた
素敵な場所を
『タケルが行く』で紹介していくのでよろしくや!

ータケルの選手名鑑ー
選手名 タケル
ポジション 投手
背番号 16
利き手 右投げ左打ち
出身地 アルゼンチン
好きな食べ物 リンゴ

ーダイチの選手名鑑ー
選手名 ダイチ
ポジション 投手
背番号 14
利き手 右投げ右打ち
出身地 長崎
好きな食べ物 きびだんご

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