俺は朗読会に参加してた。
今日の朗読は……なんと俺が書いた小説だ。
参加者全員で、俺の作品を朗読する。
うれしいような、恥ずかしいような、不思議な感覚。
みんな真剣に読んでくれる。
心を込めて読むと、作品に命が吹き込まれたようだった。
朗読会の講師は、あの有名な声優。
俺も、自分の作品を心を込めて読んだ。
そして朝が来た。
窓を開けると、清々しい空気が部屋に流れ込んでくる。
あの場所を目指して、車に乗り込む。
今日のラジオは、イギリス王室の歴史。
……もはやドロドロの昼ドラ。
いや、昼ドラのレベルを遥かに超えた物語だった。
そこには、王族としてのプレッシャーもあったらしい。
がんばれ、エリザベス。
あの場所の駐車場に着く。
門に近づくと、大きな声が聞こえてきた。
スーツ軍団がいる。選挙前に現れる、あの人たちだ。
そうか、選挙が近いんだ。
選挙前になると、彼らは門の前で元気よく何かを語る。
たぶんいいことを言っている、気がする。
それが実行されたことは……あるのだろうか?
中には、あるのかもしれない。
まずは、前回の公約の実現結果を知りたいものだ。
夢は見るものじゃない、叶えるものだろう?
公約もたぶん、同じですよね?
いろいろ言いたいことはあるけれど、とにかく――選挙には行こう。
俺は、あの場所に入る。
昨日は昼から帰った。
あぁ、メールがこわい。
パソコンを開く。メールを開く。
やっぱり、山のようなメールが届いていた。
こんなにたくさん届いて、うれしくないメールもない。
現実逃避したくて、机に伏せる。
あっちの世界に行くためだ。
暗い、あっちの世界。
深い井戸の中にいるような、静かな世界。
何も考えずにいられる場所。
今日はずっとここにいたい――そう思った矢先、あの場所の鐘が聞こえてきた。
あぁ、また呼び戻されてしまった。
また、あの場所での一日がはじまる。
まずは、メールの処理からだ。
といっても、未読を既読にするだけの作業。
団結力のない組織は、必ず崩壊する。
歴史が、それを証明してきた。
あの場所にある組織も、例外ではない。
ビジョンのないトップ。
キャッチャーのいない野球チームのようなものだ。
ただ、その日を無事に終えられればそれでいい。
それが「目標」になっている。
自由な働き方とは、一体なんだろう。
みんな違って、みんないい。
でも、会社って、それで本当にいいのか?
あの場所で生きるということの、難しさ。
いや、難しく考えなければいいだけの話かもしれない。
怒りを、エネルギーに変えればいい。
うどん小屋を告げる鐘が鳴る。
外は、燃えるような暑さ。
うどん小屋には、すでに行列ができていた。
暑くても、これを食べないとダメらしい。
冷やしぶっかけうどんもあるが、人気はあつあつのきつねうどん。
うどん出汁は、塩分補給にもなる。
俺もしっかり、塩分を補給した。
汗が、滝のように流れる。
うつわを戻して、「ごちそうさま」と言う。
厨房では、氷水でキンキンに冷えたぶっかけうどんが、次の注文を待っていた。
……そっちにすればよかったかもしれない。
昼からもまた、バラバラの組織で働く。
まずは、バラバラになったパズルを組み立てることから。
それが、俺の仕事の始まり。
一旦、あっちの世界へ行こう。
眠りに落ちる。
――気づくと、あっちの世界の街頭にいた。
ふとビルを見上げる。
そこには、うどん小屋のおばちゃんがタスキをかけて、何かを話している。
まさか……立候補したのか?
それとも、うどんへの熱い思いを語っているのか?
隣では、朗読会の講師が「おっはー!」と叫んでいた。
なんだろう、この世界。
だけど、ちょっとだけ――悪くない。
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