第二十八話「クラウンより保険が高い国」

小説
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「二度考えるよりは、三度考える方がいい、というのが私のモットーです。そしてもし時間さえ許すなら、三度考えるよりは、四度考える方がいい。ゆっくり考えてください」

ーー村上春樹『騎士団長殺し』

鳥たちが朝から騒いでいる。

昨日で梅雨明けかと思ったら、夜から大雨。

最近の天気はほんと読めない。

気象庁も占いもだいたい外れる。

そんな中、俺はあの場所を目指して車を走らせる。

いや、流されるといった方が近いか。

ワイパーは最速、フロントガラスは滝のよう。

雨音で音楽もラジオもろくに聞こえやしない。

それでもラジオの語りがふと耳に入る。

「歴史は、どこで切るかで意味が変わるんです」

なるほど、時間をどう切るかで人の意識は変わる。

明治で切るか、昭和で切るか、平成で止めるか。

そして令和。なんだかいつも“間に合わせ”の国。

祖先を大切にして、未来をうっすら怖がる日本。

革新が苦手で、危機感だけは最先端。

そして得意技は、真似。なんでも“とりあえず真似”。

“カーボンニュートラル”も“エコ”も、流行語にして安心。

ふと我に返ると、海を眺めていた。

あいかわらずの雨、降り注ぐ大地の恵み。

雨が海に酸素を運ぶって、誰かが言ってたな。

生き物たちの文明と文化は、意外とこっちの方が深いのかも。

人間の進化が“頭でっかち”になった頃、

他の生き物たちは静かに、でも確実に時代に順応していた。

この雨の中、俺は20分かけてあの場所へ歩く。

傘もささずに歩く男がいる。

仕事に行くのか、魂の禊か、それともただの傘忘れか。

人間もよくわからない。いや、自分も。

朝食は、チェダーチーズを挟んだビスケット。

これがうまいんだよ、ほんとに。

読書しながら食べるのが至高。

今日はSF作品。

物語は、事故や事件が起きるたびに決まって現れる“観察者たち”の話だった。

彼らは実体がなく、空間の歪みにまぎれて群がる。

悲劇が起きると嗅ぎつけ、カメラのような目で記録し、興味が失せると潮が引くように去っていく。

登場人物の一人がこんなふうに言っていた。

「彼らは情報に寄生して生きている。

そして情報が腐敗すれば、それさえも美味とする」

まるで現代のSNSのようだ、と思った。

言葉を浴びせ、炎上させ、共有し、消費する。

“共感”と“断罪”が同じ指先から一秒で切り替えられる。

感情がコインの表裏のように軽くなった世界。

そのSFの世界では、そんな“観察者”の存在を国はあえて利用していた。

「情報の民主化」と称して、自らの意志をぼかし、大衆の“気分”という名の船に乗り換えたのだ。

本の主人公は、最後に言葉を失う。

なぜなら、もはや誰の言葉も“本当”ではないと気づいてしまったからだ。

言葉が空気のように流れ、流れることに意味を持ちすぎて、もう何も残らなかった。

本を閉じた瞬間、窓の外では太陽が顔を出していた。

あの雨の音が、まるで嘘だったように。

始まりの鐘が鳴る。

今日もまた、俺の物語が始まる。

気がつくと太陽が出ていた。

朝のあの雨はなんだったんだ。

装置の構造をホームページで検索する。

最近はこれが最強のマニュアルだ。

「JIS規格?あぁ、なんかあったね」という風潮。

ものづくり国家の魂が、PDFの奥で泣いている。

そしてニュースでは、「若者の車離れ、ますます加速!」と。

いや、それ、離れてるのは“若者”じゃなくて“国”の方だろ。

国の政策がまずハンドル離してる。

エコと安全を叫びすぎて、最近の車はなんだか“味がしない”。

燃費がよくて静かだけど、魂も静かだ。

加速のワクワク感?エンジンのうなり?

はい規制、はい安全基準。あとはシートヒーターですかね。

それでいて保険は二重取り。

「自賠責に加えて、任意保険もどうぞ」

いやいや、強制と任意が共存してるってどういうこった。

だったらどっちかにしてくれよ。

まるで“義務の自由”みたいな話じゃねえか。

さらに、税金のカラクリ。

買っても、乗っても、止めても取られる。

駐車場が高くて、税金も高くて、維持費も高い。

「じゃあ車、いりません」と言うと、

「最近の若者は夢がない」と来た。

夢の前に、現実を見てくれ。

昔の車は夢があった。見た目も走りも自由だった。

今じゃ「走る情報端末」って感じだ。

でも俺も今はハイブリッドカー。

「燃費がいいんですよね」とか言いながら。

そんな独り言をつぶやきながら、

俺は今日もうどん小屋を目指す。

すでに長蛇の列。

いつもいる“やれやれおじさん”が、

新人のおばちゃんに“謎オーダー”を連発して困らせていた。

こっちがやれやれだよ。

でもその“やれやれおじさん”、どうやら車とバイクが大好きらしい。

ガレージの話をしながら目を輝かせてる。

こういう人たちが、かつて日本の車を育てたんだな。

昭和、平成、そして…今はうどん。

今日もうどん小屋の味は変わらない。

出汁の香りと、コシのない麺が心にしみる。

「いつかはクラウン」、そんな夢を抱えながら、

俺は今日もまた、現実を走る。

ゆっくり、静かに、燃費よく。

タケルとダイチ

おでの名前はタケルやで!

ちっこいのは最近、正社員になったダイチや。
旅好きなおでは後輩のダイチと
素敵な場所を
探して日々旅をしとるんやで。
ダイチと旅で見つけた
素敵な場所を
『タケルが行く』で紹介していくのでよろしくや!

ータケルの選手名鑑ー
選手名 タケル
ポジション 投手
背番号 16
利き手 右投げ左打ち
出身地 アルゼンチン
好きな食べ物 リンゴ

ーダイチの選手名鑑ー
選手名 ダイチ
ポジション 投手
背番号 14
利き手 右投げ右打ち
出身地 長崎
好きな食べ物 きびだんご

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