「同じ友人といつも一緒にいると、友人が自分の人生の一部となってしまう。すると、友人は彼を変えたいと思い始める。そして、彼が自分たちの望み通りの人間にならないと、怒りだすのだ。誰もみな、他人がどのような人生を送るべきか、明確な考えを持っているのに、自分の人生については、何も考えを持っていないようだった。」
ーーパウロ・コエーリョ『アルケミスト 夢を旅した少年』
今朝はずいぶん涼しかった。
毛布を蹴飛ばすこともなく、ぐっすり眠れたのは久しぶりだった。
金曜日の朝。窓の外には雲一つない快晴が広がっている。
…そう、まるで何かが始まりそうな空だった。
ラジオから流れてきたのは「戦争と技術」についての話。
レガシー技術からの転換、国の役割、人という存在。
ぼんやりと聞いているようで、心のどこかをざらりと撫でていった。
車のエアコンを入れる。「ありがとう、技術者たち」と心の中で呟く。
…便利さもまた、誰かの冒険の成果なのだ。
今日も、海の見えるあの場所がある街に到着する。
海を見ながらあの場所に向かいう。
海を覗けば、クロダイ、スズキ、ボラ、クラゲ、フグ……
朝の海は、静かに、そしてにぎやかだった。
「サンジさん、オールブルーはここにあります!」
思わず声が出た。誰に言うでもなく、でも確かに誰かに届けたくなるような声だった。
ここは現実と夢の境目。
法律も常識も、ここでは少しずつズレている。
ここは、治外法権のような海辺。
だから、俺もギアをセカンドに入れて、日常という名の航海に向かう。
朝から会議。生産性は?今後の展望は?
誰もが人任せのような顔をしている。
そして妙に笑う管理職。
あんた、笑い袋でも仕込んでるんですか?と心の中で突っ込む。
「いい職場って、なんだろうな」
ふと、そんなことを考える。
軍隊のような統率も、もしかしたら時には必要なのかもしれない。
でも、それだけでは心が潰れてしまう。
緊張感のない場所で、張りつめた気持ちだけが空回りする。
昼のチャイムだけが、俺の中の時を刻む羅針盤だった。
チャイムが鳴る。
俺は今日も、全力でうどん小屋に走る。
海に沈んだうどん小屋のその後が気になっていたが、そこにはいつものうどん小屋がちゃんとあった。
けれど、おばちゃんの姿はまだなかった。
「冷やしぶっかけうどんはじめました!」という貼り紙が目に入る。
しかし俺は、年中あついうどん派。
熱々のうどんに七味をこれでもかと振りかけ、一気にかき込む。
これは俺のうどんの流儀。
いや、10年以上続けた技だと言ってもいい。
出汁の熱と七味の刺激が、内側のエンジンに火をつける。
午後も頑張ろう。うどんが背中を押してくれる。
明日は釣りに行こう。自然との対話が、今の俺には必要だ。
スマホで風の予報を確認すると、完璧なベタ凪。
これはもう、釣りをするための一日といっていい。
風は囁く。「海が、君を待っている」と。
いつかはグランドラインに挑みたいと思っていた。
でも、もしかして。
気づいていなかっただけで、俺はもうその航路の途中にいたのかもしれない。
今朝、オールブルーを見つけた。
このところの不思議な天候、変わりゆく毎日。
これはきっと、ここが“夏島”である証。
冒険の始まりは、振り返って気づくものだ。
大きな鐘が鳴ったわけでも、海図が届いたわけでもない。
気づいたときにはもう、帆は風を受けていた。
だから、俺は記録を残す。
誰かにではなく、自分自身のために。
カピバラ海賊団船長タケル、ここに航海記録を記す。
コメント