「これは好き嫌いの問題ではない。正しい正しくないの問題でもない。いったんやり始めたことは最後までやり遂げなくちゃならない。そこには俺自身の命運がかかってもいるのだ。」
ーー村上春樹『1Q84』
俺は砂漠の真ん中を歩いていた。
暑い。暑すぎる。
見渡す限り、どこまでも続く砂、砂、砂──
なのに、空には太陽がない。不思議だ。ただただ、焼けつくように熱いだけ。
「水……水をくれ……」
口の中はカラカラ、頭はクラクラ。
気がつけば俺は、その場に膝をつき──倒れた。
……と、その瞬間、目を覚ます。
ここは──自分の部屋。天井のシミまでいつもどおり。
そうか、夢か。だが現実もまた暑かった。
梅雨とは思えぬ湿気、気温。これが令和の熱帯夜ってやつか。
ただ今日はアラームに叩き起こされることもない。
待ちに待った休日。ゆっくり過ごせる、貴重な一日だ。
枕元のスマホで昨晩のナイターのハイライトを再生する。
舞台は北海道。雨知らずのドーム球場でのナイスゲーム。
俺の推しのチーム、見事な勝利だった。
ふと、腹が鳴る。
「モーニング、行くか」
車を走らせると、ポツポツと雨粒がフロントガラスを打ち始めた。
天気予報、当たりか。とはいえ、朝の喫茶店は混み合っていた。
みんな考えることは同じだ。雨の日の休日は、ゆったりと始めたい。
焼きたてトーストと、香り高いコーヒー。
このために一週間働いたんだ、と心から思う。
このコーヒーのように、自分も味わい深い存在になりたい。などと気取ったことを考えながら、俺は梅雨空を眺めた。
帰り道、たまたま見つけた小さなお店。
ガラス越しに並ぶ雑貨が気になって、ふらりと立ち寄る。
店内には、店主が丁寧に選んだものたちが並んでいた。
どれも温もりがあって、眺めているだけで心が和む。
梅雨のじめじめした空気を忘れさせてくれるような、静かで優しい空間。
こんな出会いがあるから、外に出るのも悪くない。
ほんの短い時間だったけれど、特別な時間になった気がした。
昼食後は小休止。映画を観ながら昼寝タイム。
「暑いから、雪の映像が出る映画にしよう」
思い浮かぶのは、北海道を舞台にした“あの作品”。
野生と文化が交差する、知と本能のドラマ。そう、「チタタプ」のあれだ。
映画の中で雪をかき分ける登場人物たちを見ながら、俺はうとうとと眠りに落ちる。
夢の中で、またチタタプしていた気がする。
夕方。再び現実へ。
明日のイベントの準備を済ませる。玄関をあけた瞬間、「うおっ……」
まるで空気が水に変わったかのような湿度。
これはアイスコーヒー一択だな。氷を多めに用意しよう。
そして今夜は豚バラ。たっぷりの黒コショウを振って、
カリッと焼いて、熱々のごはんと一緒にかきこむ予定だ。
これが俺流、梅雨の勝ちメシ。
さぁ、梅雨にも負けず、夏に向けて準備していこう。
今日という日も悪くない。終わりよければ、すべてよし。いや、今日は最初からけっこうよかったな。
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