「答えなんかはないよ。いってるだろう。これは、何をどう選択するか、なんだ。君が自分で選ばなくては意味がない」
ーー東野圭吾『手紙』
夢をみた。
まるで現実の世界を、そのままコピーしたような夢。
境界は曖昧で、でもたしかに夢だった。
そんな気がして、目を覚ました。
ふとスマホを見ると、昨晩セットしたはずのアラームがオフになっていた。
誰もいじっていないのに、勝手に。
ちょっと怖い。でもそれ以上に不安になる。
なぜって?予定通りに動かない“仕組み”が、俺は一番苦手だからだ。
「人ってなんだろう」
ふいにそんな疑問が浮かぶ。
行き交う人々の波。彼らはどこに向かっているのか。
俺もこの波の一部であることに変わりはないけれど、
ときどきふと、自分だけ別のルールの上を歩いているような錯覚を覚える。
朝はジャンルを問わず本を読む。
科学書、短歌、マンガ、ノンフィクション、なんでもいい。
今日は宇宙論を少し。
「地球が太陽のまわりをまわっている」
いや、「太陽が地球のまわりをまわっている」んだっけ?
……どっちでもいい。大事なのは、俺がこの世界に“立っている”という事実だ。
仕事の依頼が入った。
それが小さなものであれ、すごくうれしい。
“継続は力なり”。
日々の積み重ねが、見えない何かを押し上げてくれている気がする。
昼、社食でうどんを頼んだら、油揚げがふたつ入っていた。
ラッキー。
そう、生きてりゃいいこともある。
うどんのおばちゃんは、まだ戻ってきてないけど――たぶん、別の次元を旅してるんだろう。
午後、若い同僚に電気の仕組みを説明しようとして、
「昔、自転車のタイヤにカチッて当てるライトがあってさ」って話をしたら、
「なんですかそれ?」って言われた。
時代は、もう違う。。。
俺は電気をわかっていたつもりだったが、ほんとうに理解していたのか?
科学と技術。
発電とは何か。
この世界を動かしている力は、どこまで説明できるのだろう。
「停滞は衰退のはじまり」
――そうつぶやいて、自分に言い聞かせる。
そんなことを考えながら、
頭のなかではすでにナイターとビールが泡を立てている。
金曜日のご褒美だ。
明日は釣りに行こうか。潮の時間は調べておかないとな。
帰り道は大渋滞。
でも気分は悪くない。
車のなかで流れるラジオが、遠くでざわつく脳をそっと鎮めてくれる。
ピチピチの瀬戸内海のエビを買って帰ろう。
冷蔵庫のなかで待っているレモンと、今夜はきっと仲良くやってくれる。
俺たちはきっと、科学と偶然と、ちょっとの信念で生きている。
地球が太陽をまわろうが、その逆だろうが――
このエビがうまけりゃ、それでいいのかもしれない。
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